※本稿は、ゴジキ『データで読む甲子園の怪物たち』(集英社新書)の一部を再編集したものです。
高校野球の「スーパー1年生」が伸び悩む理由
甲子園は高校野球の最高峰の舞台であり、多くの若者がこの場所でその才能を開花させる。しかし、甲子園で脚光を浴びたすべての選手がプロ入りするわけではない。
むしろ、注目を浴びながらもプロの道に進まない選手も数多くいる。その理由を掘り下げると、プロ入りする選手は第一章で述べたように「圧倒力」や「総合力」が求められるからだ。また、原因を深掘りすると「スーパー1年生の伸び悩み」や「一芸特化型選手の課題」、「ポテンシャルの開花とその分岐点」に行き着くだろう。
甲子園で1年生ながら華々しい活躍を見せる「スーパー1年生」は、大会中に大きな注目を集める。しかし、これらの選手がその後伸び悩むケースが少なくない。スーパー1年生として活躍する選手は、体格や身体能力が早い段階で発達しているケースが多く、高校野球というレベルで有利に働く。
しかし、これが必ずしもプロでの成功を保証するわけではない。高校時代に体格や成長のピークを迎え、その後の成長が頭打ちになると、周囲の選手との差が次第に広がるのだ。早熟型の選手はこのように成長の限界に直面することがある。
また、体格の急激な成長に技術やフォームが追いつかない場合、身体に無理が生じ、怪我につながることがある。とくに、投手であれば肩や肘、打者であれば腰や膝などに負担がかかりやすく、これがキャリアに大きな影響を及ぼす要因となる。
1年からPL学園の4番に座るも…
例えば、勧野甲輝(元・福岡ソフトバンクホークス)は1年からPL学園の4番に座っていたが、長打を狙うあまりアッパースイングになり、打球にラインドライブがかかり必然的に長打は減っていった。さらに、1年生の1月に腰椎分離症を発症する不運にも見舞われ、4番として出場した2009年のセンバツでは2試合で8打数1安打と精彩を欠いた。そして、不調のまま迎えた夏にはベンチ入りメンバーから外されたのだ。
その後、新チーム発足以降は徐々に復調し、最終的には高校通算本塁打を27本まで伸ばした。2010年のドラフトでプロ入りはできたが楽天の5巡目で、「清原二世」と呼ばれた逸材としては、あまりにも低い評価だった。本書で取り上げた伊藤(※)と同様に1年生から注目されると、潜在的な意識によって自身のフォームを崩すことや、怪我によってパフォーマンスが下がることがあるのだ。
※伊藤拓郎=甲子園で1年生で最速148km/hマークした右腕。2011年に横浜ベイスターズ(現・横浜DeNAベイスターズ)から9位で指名を受けるもプロでは活躍できず3年で戦力外通告を受ける。
スーパー1年生として甲子園で注目されると、メディアがその才能を大々的に取り上げる。この過剰な注目が選手の自制心を失わせることがある。自分の成長に向き合うのではなく、外部の期待に応えようとすることで、本来の練習や努力がおろそかになり、結果的に伸び悩む原因となることがある。

