トランプ政権成立後 新規支援は止まったまま

泥沼化していたロシアによるウクライナ侵攻。2022年3月に行われた停戦交渉以降ほとんど動きはなかったが、25年に入って事態が動き始めた。

まずトランプ米大統領が就任して、ロシアに融和的な和平案を出した。欧州側でも動きがあった。4月25日、英仏独ポーランドの首脳がロンドンで会談。和平案をまとめ、ウクライナやアメリカはそれを基本的に支持している。

アメリカや欧州が動き出したことで、ロシアには焦りが見られる。プーチン大統領は時間稼ぎをしたいようだが、このまま応じなければ、停戦できない責任を押し付けられてしまう。5月にウクライナとロシアの代表団が3年ぶりにイスタンブールで会談したのも、外堀が埋まりつつあるからだ。

ただ、停戦の行方に関しては楽観的になれない。停戦交渉には2つの大きな争点があり、いずれにおいてもロシアの主張が通れば、それは事実上ウクライナの「敗戦」となる。そればかりか、ルールに基づく秩序、民主主義や人権という価値を擁護する国際協調主義勢力の「敗戦」ともなってしまう。

争点の一つは停戦ラインだ。ウクライナは、停戦ラインは原則的に1991年独立時の国境をベースにすべきだと言ってきた。つまりロシアが14年に併合を宣言したクリミアも取り戻すという主張だ。対してロシアはクリミアの法的承認と、東部・南部の4州(ドネツク州、ルハンスク州、ザポリージャ州、ヘルソン州)全域の確保を求めている。

両国の主張には開きがあったが、ここにきて動きが見られた。英仏独ポーランド4カ国による和平案は公開されていないが、停戦ラインは現在の前線をベースにして、ウクライナもそれを黙認するという報道があった。一方、ロシアもアメリカに対して、現在の前線を交渉のベースに緩衝地帯設置を求める姿勢を、非公式に示しているとされている。

それに対して妥協が難しいのが、ウクライナの安全保障のギャランティー(保証)である。ウクライナは以前から、NATO加盟か、少なくともアメリカによる保証を停戦の条件としている。

欧州は停戦監視などを目的に有志連合部隊を送るというが、その条件としてアメリカの参加は不可欠としている。

問題はアメリカとロシアだ。トランプ大統領はウクライナのNATO加盟はありえず、有志連合にも参加しないと明言している。また、ロシアはウクライナの中立化を目指しており、国連常任理事国にドイツやトルコを加えた包括的な監視体制を求めている。常任理事国には当事者であるロシアや中国も入っている。これを西側諸国が受け入れることは難しい。停戦保証に関しては欧州、アメリカ、ロシアの三者それぞれに距離があり、5月の会談でも進展はまったく見られなかった。

停戦交渉がすぐまとまらない場合はどうなるのか。欧州側の支援体制には若干の不安がある。トランプ政権成立後、アメリカからの新規の支援は止まったままだ。欧州は支援を増やすと言うが、アメリカの穴を埋めるなら単純計算で支援を従来の倍にする必要がある。これを受けてEUは8000億ユーロ分の軍拡をする方針を打ち出した。このうち1500億ユーロはEU名義で債券を発行して、欧州軍需産業への投資やウクライナ支援に充てる。問題は残りの6500億ユーロだ。EUは毎年の財政赤字をGDP比3%以内に抑えるルールを加盟国に課している。防衛費に関してはこのルールを停止して増額できるように変更。総計で6500億ユーロ分の軍拡を目指している。

(構成=村上 敬)