スーパー業界の勢力図が変化している。淑徳大学経営学部の雨宮寛二教授は「今やスーパーは『安さ』だけでは生き残れない。タイパとコスパを徹底追求し、惣菜の評価が高い『トライアル』がいい例だ」という――。
トライアル門司片上海岸店(北九州市)
撮影=プレジデントオンライン編集部
トライアル門司片上海岸店(北九州市)

いつでも購入できて、レジで待たされず、品質もほしい…

日々の生活や暮らしの中でよく使う日用品や消耗品は、できるだけ安く買いたいもの。消費者にとって、「安く」というのは当たり前で、それ以上の付加価値がなければ、消費者の需要は満たされないというのが、現在のスーパーマーケット(スーパー)業界の実態であると言えます。

その付加価値とは、「衣・食・住すべての買い物ができること」に始まり、「四六時中いつでも購入できること」「レジで待たされないこと」「鮮度や品質が高いこと」「ポイントが貯められること」「クーポンが使えること」など、限りなく多様化しています。

こうした多様化するすべての付加価値を一企業が実現することは困難であることから、これまで日本全国に群雄割拠するスーパーが、約25.4兆円(2023年度、「2025年版スーパーマーケット白書」調べ)とも言われる日本のスーパーマーケット業界のマージン獲得を狙って競い合っているわけです。

IT企業トライアルが西友を買収する衝撃

この構図に近年変化が生まれています。従来、スーパーは既存の小売企業が中心でしたが、最近では、異業種の企業も業界に参入して売り上げを伸ばしています。それが、2025年3月に西友の買収を発表したトライアルカンパニー(トライアル)です。

トライアルは現在、スーパーセンター(総合スーパー)やディスカウントストアを中心に事業展開していますが、元来は、ソフトウェアの構築やパソコン販売を本業とするIT企業でした。

ソフトウェアでは、主に流通業界向けのITシステム開発を手がけていたことから、小売業界への参入は、まさに範囲の経済を生かした事業展開として読みとることができます。つまり、トライアルは、ITの力で消費者が求めるすべての付加価値を実現し、市場のマージンを総取りすることを目指してスーパー業界に参入したと言えます。

ITを小売に生かす戦略としてトライアルが目指すのは、顧客の「コストパフォーマンス(コスパ)」と「タイムパフォーマンス(タイパ)」を限りなく追求することにあります。ITの力により、顧客のコスパとタイパを競合他社よりも高めることで違いを作り出すことに注力しているのです。

トライアルが競合との違いを生み出すうえで、特筆すべき打ち手としては、次の2つを挙げることができます。