電動化への道筋が関税でストップ
今、自動車産業は、かつてないほど先行きが見通せない「リスク(不確実性)」に晒されています。100年に一度と言われる大変革により業界の構造がCASEへと移行し、「電動化」と「知能化」という2大競争軸への経営シフトが求められる一方で、トランプ政権が2025年4月に発動した米国輸入車への追加関税(タリフ)25%への対応にも迫られ、“多重危機”の時代に入っています。
電動化や知能化といった新たな潮流は、その背景に、地球温暖化や交通事故の防止といった社会的使命と責任が存在し、それには大義と正当性が伴うものであることから、今後自動車業界が優先的に取り組むべき方向性としてグローバルレベルで認知されています。
しかしながら、トランプ政権はアメリカファーストの視座から、バイデン前政権が推進したEV普及策をあえて撤回し、高いEV販売比率が求められた温室効果ガス規制の見直しを決定するなど、さまざまな政策変更を講じたことから、米国のEV市場の成長が鈍化するに至ります。
これにより、自動車メーカーの経営における優先事項が電動化や知能化よりもトランプ政権が課したタリフへの対応に移行したことから、電動化と知能化へのシフトは、今後3~4年程度停滞することになり、環境や社会の改善も遅れることになります。
トランプ大統領の政策がアメリカを孤立させる理由
ここであえて強調しておきたいのは、米国が世界に与える影響力です。現在、アメリカによる世界への影響力はポジティブからネガティブへと変わりつつあります。
トランプ政権は、選挙中に公約した「Make America Great Again(MAGA:アメリカを再び偉大な国にする)」を達成するために過度な産業保護政策を次々と打ち出しています。それは、アメリカの国際的な役割を限定し、アメリカ国内の利益を優先する外交政策や貿易政策をとることで国益の最大化を図るといったスタンスです。
しかし、こうした保護主義への回帰は、たとえ短期的な利益や一時的な優位を生み出せたとしても、持続的な利益や優位を獲得できないばかりか、アメリカに対する信頼と評価が失墜し、世界からアメリカを孤立させることになるため、結果として、真にアメリカを偉大にすることにはならないということです。
確かに、アメリカ政府が輸入自動車にタリフをかければ、GMやフォードなど国内の自動車メーカーの価格競争力は一時的に高まるかもしれませんが、それは、GMやフォード自体の事業競争力を真に高めることを意味するものではありません。

