「あるある」「バンキシャ!」の教訓を生かさなかったフジテレビ上層部

中居正広氏と女性のトラブルに端を発したフジテレビの諸問題。そこで、改めて手元にある230ページの冊子を読み返してみた。2007年、系列準キー局、関西テレビが健康情報番組「発掘!あるある大事典Ⅱ」の捏造事件の再発防止のために編集し、全社員、番組スタッフのほか定例会見で記者にも配布された「関西テレビ放送 番組制作ガイドライン」だ。筆者はこの事件の取材班キャップだった。

 番組内の捏造と企業の経営体質が問われているフジとでは次元が異なるが、ガイドラインにはコンプライアンス責任者による組織全体の意思疎通の円滑化や、「逃げない、隠さない、そしてスピーディーに」と危機管理広報の基本が記載されていた。皮肉にも今回、フジが糾弾された部分だ。18年前の教訓を、大多亮・関西テレビ社長の古巣であるフジは学んでいなかった。

 それだけではない。2009年に発覚した「真相報道 バンキシャ!」(日本テレビ)の岐阜県庁裏金誤報事件では、テレビ局なのに最初の会見で「取材記者は1社1人、カメラ取材不可」という制限を設けた。これに各メディアは一斉に反発し、3時間後に会見をやり直した。そんな日テレのお粗末な対応を知りながら、報道局出身者もいるフジ上層部は1月17日の初回会見で同じ轍を踏んで猛批判を浴びた。その10日後に行われたのが10時間強の「やり直し会見」だ。

 フジは予定していたドラマやバラエティ番組を取りやめ、ノーカットで中継。一方、会見が続いていたこの日の夜、「ニュースウオッチ9」(NHK)、「news zero」(日本テレビ)、「報道ステーション」(テレビ朝日)、「news23」(TBSテレビ)、「WBS」(テレビ東京)は「嘉納修治会長と港浩一社長の引責辞任、日枝久相談役の進退発表なし」を軸に大きく報じた。「news23」は一緒にゴルフコースを回る映像を通して、日枝相談役と故安倍晋三元首相の親密な関係を真正面から取り上げた。後に『週刊文春』が訂正したフジ幹部の関与を鵜呑みにしたような報道も散見した。とはいえ事件はお台場だけで起きていたのか。BPOや民放労連も再調査する必要がある。

フジ・メディアホールディングスとフジテレビジョンの記者会見
撮影=石塚雅人
フジ・メディアホールディングスとフジテレビジョンの記者会見にて(2025年3月31日)

 私事だが、週刊誌記者だった20数年前、フジの番組に出演していたタレントのスキャンダルの取材をしたことがある。ネガティブな内容にもかかわらずフジの広報担当の女性は「担当プロデューサーをつかまえて、原稿の締め切りまでに必ずコメントをお送りします。私の携帯は○○です」と電話の向こうで真摯に対応。約束を守ってくれた。直近に別のキー局に同様の取材をしたときはけんか腰の対応をされ、部署をたらい回しにされたあげく、なしのつぶてだったので嬉しかった。誠実な多くのフジ局員は歯を食いしばって仕事をしている。それゆえ今回の問題で池に落ちた犬を叩くような風潮や理不尽なクレームを視聴者センターにぶつけたりする行為に対しては憤りを覚える。

 フジテレビでは制作会社や協力会社、外部スタッフなど1万人以上の人が働いている。テレビ局に限らず大企業の失策は取引先を含め、多くの従業員と家族を路頭に迷わせる。本誌の発売時までには第三者委員会の結果公表や検証番組の放送、さらなる役員人事があるかもしれない。若手の奮闘と再生、そしてこの不祥事にも現場は萎縮せず、権力の監視というメディア本来の役割を果たすと信じている。