G7首脳会議を置き去りにしたトランプ米大統領の「協調」軽視
トランプ米大統領の場当たり的な取引外交は手詰まり感を顕わにしている。「躓き」と言い換えてもいい。カナダで開催されたG7(主要7カ国)の首脳会議(6月16―17日)はトランプ大統領の孤立と「協調」軽視の姿勢を世界に印象付けた。同盟同志6カ国との関係は冷え込んでいる。それでも虚勢を張って成果の自画自賛に躍起だが、焦りと苛立ちは隠しようがない。潮目が変わりつつある中で、先行きの不透明さは増すばかりだ。今、テレビはどこに視点を据えて、何を、どう伝えるべきか。
トランプ大統領は中東情勢の緊迫化を理由に首脳会談を中座して帰国するという挙に出た。同盟同志国との「結束」と「協調」を軽んじるトランプ外交は頂上会議(サミット)の様相を一変させ、意義を大きく減じた。また、事前にテレビ報道が焦点に据えた日米首脳会談も「合意の未達」に終わり、日本目線に偏る報道は目立たなかった。むしろ、ニュースの核が消失したことにより、各局の報道視点がぼやけてしまった印象は拭えない。各局は「足並みの乱れ」等々、ありきたりの表現で総括したが、参加国の首脳たちはトランプ氏と何の問題で、どのように食い違ったのか。残された課題についてG7はどう向き合うのか。もっと具体的に報道して欲しかった。
世界の秩序を先導してきたG7体制はどうなるのか。その答えをテレビ報道に求める視聴者(国民)は多いはずである。私もその一人だ。年初に発表された「世界10大リスク」(米ユーラシア・グループ社)の影響もあるだろう。「深まる『Gゼロ』世界の混迷」が第1位のリスク要因に挙げられ、国際秩序への関心度がより一段と高まっている。「Gゼロ」とは国際的な秩序を主導する国が存在しない状態を指す。1月7日の「国際報道2025」(NHK・BS)と同12日の「サンデーモーニング」(TBSテレビ)がそれぞれ取り上げた。この中で主宰者のイアン・ブレマー氏(国際政治学者)は「冷戦初期や1930年代の状況に匹敵するほど深刻だ。危険な1年になる」と警告を発していた。
もう5カ月が経つ。だが、その見立てが説得力を失ったとは思えない。G7はこのまま主導力を失って「Gゼロ」の世界が現実のものになってしまうのか。今、テレビ報道が据えるべき視点はこの点にある。首脳会議「以後」の報道に期待したい。
「躓き」を象徴する仲介外交の不調。権力の監視役を果たさない無批判の報道
本稿の冒頭に書いた通り、5月から6月にかけてトランプ外交の躓きを浮き彫りにする出来事が相次いだ。象徴的な事案はウクライナの即時停戦を目指す調停外交の不首尾である。トランプ氏は「プーチン大統領とは気心が知れている。私だけが停戦を実現できる」と自信満々の口ぶりで電話会談(米東部時間5月19日)に臨んだものの、結果は散々だった。大言壮語を自ら証明したのも同然だ。テレビはトランプ外交の躓きをどのように伝えるのか。私は各局の報道を注視した。
「米露首脳、電話会談で進展なし」のニュースが伝えられたのは20日午前だった。昼帯の「大下容子ワイド!スクランブル」(テレビ朝日)や「FNN Live News days」(フジテレビ)、「NHK正午ニュース」は米国が交渉から離脱する可能性に言及し「これ以上の進展がなければ身を引くだけだ」「バチカンが仲介に意欲を示している」「これは私の戦争ではない」等々、トランプ氏の発言やSNSへの投稿内容などを伝えた。夕方と夜帯の番組も大差のないニュースを放送した。

