日本の観光地が抱える問題は何か。立教大学客員教授の永谷亜矢子さんは「多くの観光地は、地域の共有財産で金儲けをしてはいけないという呪縛に囚われている。観光客のニーズに応じた適切な価格設定をしないと、観光地の持続可能性は失われる」という――。

※本稿は、永谷亜矢子『観光“未”立国 ニッポンの現状』(扶桑社新書)の一部を再編集したものです。

浅草・浅草寺の雷門
写真=iStock.com/Thomas Faull
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「観光で金儲け」にやましさを覚える日本人

観光名所は、地域の共有財産となっているケースが往々にしてあります。そのため、観光関係者の中には、「客からお金を取って利益を上げること」にある種のやましさや抵抗感を覚える人も少なからず存在します。

なかには、ただ地域への貢献心から「金のためにやっているわけではない」とボランティアのように自らを酷使している事例も起きています。これでは、継続性に欠けてしまいがちですよね。

地元の人々からすると、せっかくの観光資源もあまりに日常の風景となってしまい、住民向けの安すぎる価格設定になっていたり、「もともと地域のためのものなので安価で当然」といった認識もあります。

もちろん、そうした伝統を受け継ぐのは結構なことですが、そうであっても、価格を地域外からの訪問者と地域住民とで分けることも検討するべきです。こうした価格の差別化は、アクティビティや伝統工芸体験のワークショップ、祭りなどで特に効果を発揮することがありますから。

安すぎると観光客が押し寄せてしまう

客観的な視点を失ってしまい、適正な価格で値付けすることができないという“ビジネス化”に踏み切れない事例は、日本の観光業界でよく目にする光景です。重要文化財に指定された神社仏閣の拝観料がたった数百円といったケースは、日本各地に山ほどありますよね。

でも、海外からの観光客はそうした背景など知る由もありません。魅力ある観光地には連日、過剰なまでに観光客が押し寄せてしまい、観光公害となる現象もあちこちで起きています。

資金不足でハードが整っていないところに大量の観光客が溢れたら、当然、トイレや駐車場が不足します。住民の足である路線バスを観光客に占領されることも、よく聞く話です。安価のままマネタイズ目線が欠如していたら、オーバーツーリズムの問題はますます深刻になるばかりです。