「わかりやすい」だけではリーダーとして不十分
私は、話す目的に応じ、話す力を3つの階層に分けて提唱しています。 第1階層は、好感を得る話し方です。相手と協力的な関係構築を目指す段階で、いわばスタートライン。第2階層は、わかりやすい話し方。特に論理的に伝える力は、会議やプレゼンテーションで活用できます。
しかし、ただわかりやすく伝えるだけでは指導力を発揮できません。指導力を発揮するために必要なのが、第3階層の人を動かす話し方です。この段階では、誰が話したかが意味を持ちます。リーダーのスピーチでは「ほかの人ではなく、なぜあなたが話すべきなのか」を示す必要があります。
3つの階層に優劣はありません。しかし、リーダーとして組織を導くためには、単に上手に話すだけでは不十分。話すことで人を動かすことが重要です。今回は、「人を動かす話し方」をするための5つの原則をご紹介します。
リーダーの言葉には、必ず目的があります。コミュニケーションには、①好感を得る、②情報を与える、③行動を変える、という3つの主目的があります。リーダーは「③行動を変える」ことを目的とした話し方を習得することで、単なる上手な話し方と差をつけることができます。もし目的が明確にできないなら、口を開かないほうがよほど有益なのです。
人前で話す依頼があったとき、つい陥りがちなミスは「何を話そう……」と、話す内容から考えてしまうこと。その前に、あなたの話を聞くことで、相手をどう変えるかを考えなくては、リーダーの発信とは言えません。まず取り組むべきは、話す目的を明確にすることなのです。そのためには、準備段階であらゆる分析をすることが大切です。話す場所、聴衆の人数や属性、設備などの確認も忘れずに。確認が終わったら、聞き手に最も伝えたいことを考えていきます。
「どう話すか」もリーダーの自己表現スキルの一つ。何も言葉を発していなくても、服装や動作など一挙手一投足がメッセージを発しています。相手の聴覚だけでなく、視覚に届く情報も意識しましょう。戦略的な演出がリーダーには求められます。
人前で話すからといって、必ずしも強いリーダー像をつくることだけが正解ではありません。確かにトヨタ自動車の豊田章男会長や、楽天グループの三木谷浩史会長兼社長は、快活な話し方でリーダーシップを印象づけています。しかし、淡々とした話し方をするからこそ信頼されている経営者や政治家も大勢います。
代表格が、ソフトバンクグループの孫正義会長兼社長です。ホワイトハウスで行われたドナルド・トランプ米大統領との記者会見で、孫会長はオープンAIのサム・アルトマン氏やオラクルのラリー・エリソン氏といった錚々たる経営者と並び、スピーチでも圧倒的な存在感を発揮していました。
孫会長は特に日本語では話し方が平坦なため、そのぶん両手のジェスチャーを積極的に取り入れています。さらに会見時はわざわざ後ろを振り返ってトランプ大統領に話しかけたり、握手をしたりしています。あえて会話する姿を見せることで、2人の良好な関係を印象づけています。
この会見の冒頭で、孫会長は壇上に上がると「背が高くなった気分だ」とジョークを交えて場を和ませていました。グローバルなスピーチにおいて、冒頭でのジョークは鉄板です。しかし、どうすれば笑いを取れるか頭を悩ませる方も多いもの。もし苦手なら、無理やり冗談を入れる必要はありません。「スピーチはこうあるべき」ということに囚われるよりも、重要なことは「自分が人前で話す目的は何か」を突き詰めること。そうすれば、どのように自己演出すべきかが明確になります。自己演出を他人任せにしない。発信したいメッセージに合わせて、自らが狙った印象を持たせようとする姿勢がリーダーには求められます。話し方や言葉遣い、服装なども含めたすべてを「話し方」ととらえ、コントロールする能力が大切です。
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