認知症を遠ざける方法はあるのか。薬学者・脳科学者の杉本八郎さんは「高齢者約1万4000人のデータに基づく研究によると、一日の歩行時間が長いほど認知症発症のリスクが下がる傾向があった。82歳の私自身も、毎日のウォーキングを欠かさないようにしている」という――。

※本稿は、杉本八郎『82歳の認知症研究の第一人者が毎日していること』(扶桑社新書)の一部を再編集したものです。

パズル紙の切り抜き
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認知症予防の基本は「血液サラサラ」

認知症予防の基本となるのは、高血圧や糖尿病などの予防にもつながる「血管を丈夫にして、血流を良くする」生活習慣です。脳にまで十分な酸素や栄養が届けられれば、年を重ねても生き生きとした神経細胞を維持しやすくなり、認知症を遠ざけることができるのです。

もちろん、さらに効果的に予防するには、「認知症」の原因をより意識した対策を講じることも大事です。両方を併せて行えば、まさに鬼に金棒だと言っていいでしょう。

生活習慣病の予防のためにも、認知症の予防のためにも、まず第一に私がおすすめしたいのは「有酸素運動」です。

有酸素運動が「脳に良い」理由

有酸素運動というのは、酸素を使いながらある程度の時間をかけて行う運動のことです。

こういう言い方をすると難しく感じるかもしれませんが、ウォーキングやサイクリング、エクササイズなどはすべて有酸素運動です。ちなみに無酸素運動というのは、酸素を使用せず、短距離走や筋トレなど筋肉に対して瞬発的に高い負荷をかける運動のことです。

なぜ、有酸素運動のほうをおすすめするのかというと、酸素を使う有酸素運動は血行を良くする効果が非常に高いからです。脳に十分な血液が流れれば、栄養や新鮮な酸素がたっぷりと送り込まれるので、脳の細胞も活性化します。

体力にあまり自信がない人でも気軽にできるのは、なんといってもウォーキングでしょう。気軽であるだけでなく、ウォーキングによって、脳(海馬)の血流が増加することが、東京都健康長寿医療センター研究所のラットを使った実験でわかっています。

しかもこの結果は、若いラットでも高齢のラットでも同様だったそうなので、そういう意味でもウォーキングは、高齢者にとってやらなくては損な運動だと言えるでしょう。