※本稿は、朝日新聞取材班『ルポ 大阪・関西万博の深層 迷走する維新政治』(朝日新書)の一部を再編集したものです。
シンボルは344億円の「世界一高い日傘」
海風の心地よさをかき消すような、強い日差しが注いでいた。数分歩くとシャツに汗がにじみ、秋の訪れはまだ感じられない。
2024年10月11日午後3時。大阪湾に浮かぶ人工島・夢洲(大阪市此花区)では、開幕が約半年後に迫った大阪・関西万博の会場建設が急ピッチで進んでいた。
目を引いたのが、万博のシンボル・大屋根リング。1周2キロ(直径675メートル)で、高さは12〜20メートル。世界最大級の木造建築物とされ、会場中心部を取り囲むように建つ。建設費は344億円に上り、野党の国会議員が「世界一高い日傘」と批判するなど、物議をかもした。
リングの75段の階段を上がり、来場者が歩ける空中歩廊に着いた。すでに1周はつながり、芝生を張る作業が続いていた。そこから会場中心部を見渡すと、「万博の華」と言われる各国のパビリオン(展示館)を建てる現場が見えた。
完成した海外パビリオンはなく、大半は鉄筋の足場が組まれていた。数十のクレーンが立ち並び、重機の鈍いエンジン音や「カンカンカン」と金属をたたく音が響く。長袖・長ズボン姿の作業員らは、木製の板を運んだり、施設の外装をチェックしたりしていた。
コンセプトは「未来社会の実験場」
「準備はこれから正念場を迎える。建設工事は順調に進んでいるが、開幕までにしっかり間に合うよう気を引き締めたい」
万博を主催する2025年日本国際博覧会協会(万博協会)の副事務総長・高科淳はリング上で、報道陣にそう話した。2カ国のパビリオンが着工していなかったが、開幕までに工事が間に合わないと申し出た国はないという。
成功のために欠かせない前売り入場券の売り上げは、この時点で約700万枚。開幕までの目標の半分ほどにとどまっていたが、「魅力的なコンテンツがたくさんあるので、ちゃんと届く形での発信もしっかりやりたい」と語った。
万博には大規模で総合的なテーマを扱う登録博(旧一般博)と、規模は比較的小さくて特定のテーマに絞った認定博(旧特別博)がある。今回は登録博で、日本では1970年の大阪万博、2005年の愛知万博に次いで3回目となる。
テーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」で、コンセプトは「未来社会の実験場」。
約160カ国・地域が参加して、自国の科学技術や文化、歴史を伝える。パナソニックホールディングスや住友グループなど13企業・団体のパビリオンもある。メディアアーティストの落合陽一ら8人のプロデューサーも、それぞれパビリオンを手がける。
半年の期間中に、350万人のインバウンド(訪日外国人客)を含めて2820万人の来場者を見込んでいる。経済波及効果は2兆〜3兆円とはじいた。