銀行員の父と、メーカー社員の母は仕事に懸命だったが、家庭内ではほとんど会話がなかった。そんな冷たいどん底の家に育った女性は結婚・離婚を経て、2人の娘とともに実家に戻ると、そこには散乱するゴミとともに暮らすW認知症の両親がいた――。(後編/全2回)
【あらすじ】北海道地方在住の胡麻由芽さん(仮名・50代)は、24歳の時に結婚し、2人の娘に恵まれた。自分が育った「会話ゼロの冷たい家庭にはなるまい」と思い孤軍奮闘。仕事も家事も子育ても完璧にこなそうとするあまり、40歳の時に倒れ、うつ病と診断される。そこへ追い打ちをかけるように、夫の不倫や借金が発覚。長女の言葉に突き動かされて夫と離婚し、娘たちを連れて実家に戻ったが、そこにも試練が待ち受けていた。

ゴミ屋敷と経済破綻

不倫した夫と離婚し、2015年11月に実家に身を寄せた胡麻由芽さん(仮名・50代)は、変わり果てた実家に愕然とした。

40歳以降、仕事(製薬会社)が忙しく、うつ病にも罹患したことで実家に帰省できなかったが、両親はいつからか、1階に76歳の父親、2階は73歳の母親という家庭内別居状態に陥っていた。

「父は65歳まで延長雇用で、母は57歳で退職しています。仕事を辞めたがっていた母は、私が出産することを理由にして退職しました。私が出産した後は、『サポートだ』と称して私の家に来たり、友人や自分の兄妹の家に行ったりと、日中に父と2人でいることを避けていました」

1階の水回りはどこも掃除されていない状態で、部屋のあちこちにゴミ袋の山。父親が使っていたであろう食器はどれも汚れがこびりついたまま。2階にはキッチンがないため、冷蔵庫と電子レンジ、電気ポットが置かれ、母親は電子レンジで温められるものやカップ麺、総菜などを食べていたようだ。

「幼い頃から感じていた冷たい夫婦が1階と2階で居住空間すら別にし、顔も合わせず、衛生状態も悪い中で生活していたのは驚きました」

戻ってきた胡麻さんを見た父親は「かわいそうに。なんでこんな目に遭わんといかんのか。元夫さんもひどいことする」と嘆いた。

父親は着替えがうまくできなくなっており、近所に住む81歳の伯母(父親の姉)が頻繁に来て世話をしてくれていたが、入浴は週に1回自力でしていたようだ。

実家に身を寄せる直前、実家の固定電話に電話をかけたところ、繋がらなかった。調べると、父親の貯金が0円になっていることが発覚。胡麻さんは父親をパーキンソン病専門の脳神経内科に連れて行くと、「レビー小体型認知症からくるパーキンソン病」と診断される。

頭部のMRI画像
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「父は、個人のクリニックでパーキンソン病と診断されて通院していましたが、合わない薬を長年飲み続けたせいで幻覚や妄想が出ていたようです。パーキンソン病といっても数種類あり、専門医でなければ薬の処方など間違った治療をしがちなのだそうです」

父親は薬やレビー小体型認知症などの影響で一獲千金の幻覚や妄想をするようになり、退職金を含む数千万円の貯蓄をすべてギャンブルに注ぎ込んでしまったらしい。

一方の母親はそんな夫の変貌を見て見ぬ振り。兄も、実家や両親がそんな非常事態であることを知っていたが、胡麻さんがうつ病だったため隠していたのだ。

父親の貯金は0円だったが、銀行員である程度出世した父親は、2カ月48万程度の年金収入がある。実家は持ち家でローンもない。そのため父親の介護費用は父親の年金から出すことができた。

それなのに「経済破綻した!」と母親はわめいていたのだ。

「詳しく聞くと、父の貯金は0円ですが、母は勤めていた頃の貯金が800万円くらいありました。母の考えは、夫のお金で生活するのが当たり前。自分の貯めたお金は一銭も使いたくない。自分のお金は自分で使うもの。父がロトや賭けマージャン、伯母(父の姉)とパチンコなどをして使い果たし、家の固定費が引き落としできない状態まで使い果たしたため発覚したことですが、『破綻してないじゃないか!』と内心母に怒りがわきました」

胡麻さんが両親のお金を管理することを提案したところ、母親が拒否したため、父親の年金だけ管理し、自分の稼ぎと足してやりくりすることに。

胡麻さんは母親のことも「おかしい」と思い、精神科に連れて行き、検査を受けさせたところ「海馬縮小型認知症」と判明。

介護認定を受けると、父親は要介護2、母親は要支援2だった。