中国で、男性同士の恋愛を描いたボーイズ・ラブ(BL)作品が人気を集めている。どのように検閲を潜り抜けているのか。『BLと中国』(ひつじ書房)を書いた立命館大学政策科学部の周密助教に、ジャーナリストの高口康太さんが聞いた――。(後編/全2回)

中国BLは「ネットの掲示板」から生まれた

中国BLの起点は1990年代にさかのぼる。

CLAMPの『聖伝』『東京BABYLON』などのマンガが中国に入り、1999年には雑誌『耽美季節』が創刊された。この雑誌は日本のBL作品を翻訳、紹介する内容だったが、同じく1999年に中国のBL作品も誕生している。

ネット掲示板で発表された「世紀末,最後的流星雨」(世紀末、最後の流星雨)が初の作品と言われる。「スラムダンク」の流川楓と仙道彰を主人公とした二次創作作品だ。

BLと中国 耽美(Danmei)をめぐる社会情勢と魅力』(ひつじ書房、2024年。以下、『BLと中国』と略記)の著者、周密さんも、最初に読んだ中国BLはネット掲示板に書き込まれた作品だったと振り返る。

「大手IT企業・バイドゥが運営するネット掲示板でBL作品を読みました。「今日からマ王!」「ガンダムSEED」など日本アニメの二次創作ですね。当時はまだネット規制が緩くて、性的描写がある小説を書き込んでもOKでした。私が初めて読んだのは百度贴吧(Baidu Tieba)に掲載された作品です。今は規制が厳しくなりましたが、当時は性的描写がある小説の投稿も許されていました」

中国のネット事情
写真=iStock.com/Oleksandr Siedov
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「ネット小説サイト」には557万作以上もの投稿

中国の検閲は新聞、雑誌、映画、ラジオ、テレビといったオールドメディアほど厳しく、ネットドラマやネット掲示板、ソーシャルメディアなどのニューメディアのほうが比較すれば緩い傾向にある。新しく登場したメディアには規制が追いつかないから、という単純な理由である。

ただ、当初のゆるゆるの状況から次第に規制は強まってきた。日本以上にネット社会が発展した中国だけに、今では中国共産党も全力投球でネット検閲をがんばっているのだ。つまり、黎明れいめい期にだけ存在した、自由な空間に中国BLが生まれたわけだ。

ネット掲示板に続いて普及したのがネット小説サイトだった。日本の「魔法のiらんど」「小説家になろう」「カクヨム」に似た、ネットユーザーが自作小説を投稿できるサービスである。

BLと中国』によると、BL作品が多い晋江文学城は2003年の設立。2023年5月14日時点で557万作以上もの作品が投稿されている。映像化などメディアミックス展開を前提として、著者と著作権管理委託契約を締結した作品に限っても25万作に達するというから、これぞ中国という圧倒的物量に驚かされる。ちなみに読者のデータも強烈だ。会員数は6111万人、1日の平均利用時間は80分(2023年5月14日時点)。読者の数も、熱意もともかくすさまじい。

日本のネット小説サイトと大きく異なるのは初期から課金システムが導入されていた点だ。冒頭部は無料で、その後は1000字ごとに0.02~0.05元(約0.4~1円)を支払うと読むことができる。他にも作者に激励の気持ちとしてお金を送れる投げ銭システムもある。2010年代半ば以降の人気小説はほとんどがネット小説サイトから生まれ、数億円を稼ぎ出す人気作家が続々と輩出された。