ABCクッキングスタジオの朝礼は十数分程度の短いものだ。そのうちユニークなのが、生徒から送られてきたエピソードの紹介だろう。
エピソード自体は素朴だ。「残業の多い彼にABCで習ったバターロールを焼いてあげたら、ふたりの仲が深まった」といったものだけれど、本社スタッフが感情を込めて読み上げるのを聞いていると、なんとなく温かい気持ちになってしまう。同社の朝礼に参加していると、そうした手作りの運営方針が伝わってくる。社長の志村なるみ氏は朝礼の意義についてこう語る。
「私はほんとに素人から会社を始めました。そして、会社を大きくしていくうえで、朝礼、とくにスピーチの重要性に気がついたのです。社員が少なかった頃はスタッフを集めて話をしなくても、十分にコミュニケートできました。しかし、人数が増えていくにしたがって、自分の口から問題点や方向性を話さなきゃならないと感じたのです」
そんな志村氏がスピーチする際、心に留めていることが3点ある。どれもがビジネスマンにとってとても参考になるアドバイスだ。ひとつ目は、相手が聞きたい話をすること。
「普通のスピーチって自分が話したいことだけを長々とする。聞いているほうはつまんないんですよ。私は自分がしゃべるのが下手だと自覚していたから、相手に聞いてもらえるような話をすることにしました」
あと2点は「間違えてもいいと思って話すこと」、そして「大きな目的を持ってスピーチに臨むこと」だ。
「私はスピーチ上手になろうと思ったことはありません。会社を大きくするために自分の意思を伝えなくてはならないから人前で話をするのです。だから、人前で緊張したり、アガったりもしません。ビジネスマンの目的は仕事をして利益を上げること、スピーチの専門家になることではありません」
(尾関裕士=撮影)