年収交渉のタイミングは「面接の最後の最後」
年収交渉はやるべきなのでしょうか。交渉学の専門家である田村さんは「交渉はすべき。でも、その“ポイント”を事前に知っておくべき」と言います。
「年収交渉のポイントは二つあります。一つは面接の最後の最後にすること。もう一つは具体的な金額を相手(面接官/企業)に提示させることです。
そもそも交渉においてもっとも重要なのは、駆け引きでなく、交渉相手と信頼関係を構築することです。強い信頼関係が下地にあるからこそ、自分と相手の利益が最大化できるわけです。
お金の話を面接の最後に持ってくるのは、まずは面接官と信頼関係を築きたいからです。信頼関係を築くうえでは、相手に自分の価値を納得してもらわなければなりません。それができていない段階で数字を出しても、合意できる可能性は低いでしょう。それどころか、『お金の話しかしない』『できるだけ安い金額におさえよう』と思われてしまうリスクすらあります。
まずは自分がどんなスキルや経験を持っているのかをプレゼンテーションし、面接官を納得させることが、年収交渉の前準備として必要不可欠です。
そして、面接官と十分な信頼関係を築き、年収交渉ができる段階に入ったとしても具体的な金額は自分から言わないようにします。なぜなら、面接官が面接前にオファーの内容を固めているとは限らないからです。候補者の話を聞きながら『この人ならこれくらい出してもいいな……』と考えている可能性もあるでしょう。
どういうことか。例えば、あなたが『年収700万円を希望します』と伝えたとします。この時、もし面接官が『年収800万円までなら出せる』と考えていたらどうでしょう。『800万円まで出せますよ』と親切に案内してくれることはほぼなく、希望額の700万円で落ち着くでしょう。面接官に提示させていれば年収800万円になったかもしれないのに、そのチャンスをみすみす逃してしまっているわけです。
大前提として、企業は安く雇いたいし、転職者は高く雇われたい。だから、どちらが最初に数字を提示するかが重要になります。なぜなら、交渉においては、最初に提示された数字が基準となるからで、これを『アンカリング』と呼びます。
逆に、転職者側が高過ぎる金額を提示してしまうことも考えられます。その場合、面接官からの印象が悪くなり、やはり交渉がうまくいかない可能性が高まります。このように、転職者から希望年収を提示するのはデメリットが大きいので避けたほうがいいでしょう」