転職に対する価値観が大きく変化している。『月刊人材ビジネス』を発行するオービーエヌ社長の水野臣介さんは「転職をポジティブに考えている若者の中には、安易に転職を重ねて結果的にキャリアを積み上げられないケースがある。SNSやネット上に溢れている転職成功者のストーリーを鵜呑みにしてはいけない」という――。
※本稿は、水野臣介『人材ビジネス』(クロスメディア・パブリッシング)の一部を再編集したものです。
かつては「辞めさせない人事」が主流
入社後3年以内に離職する大卒者の割合は、過去20年間、概ね3割前後で推移しています。先に結論を言ってしまうと、これは日本経済が失速して、会社と社員の関係、仕事と個人の関係が変わってしまったことに由来します。
1980年代、まだ日本の景気が良かったころは、求人が多く、企業の採用基準が引き下げられていました。
企業にはまだ体力があり、「やる気」さえあれば会社が面倒をみてくれた時代です。社員数が売上に直結していたため、多くの学生を採用し、「辞めさせない人事」が主流でした。当然、離職率も低下します。
反対に不景気には求人が減り、採用基準は引き上げられました。学生は、不本意ながら志望に合わない企業に入社する「不本意就職」をせざるをえなくなり、離職率が上がりました。
終身雇用制度が崩壊し、成果主義へ
1990年代、とうとうバブルが崩壊し、製造業の就業者数が激減しました。その一方でサービス業への就業者数が増加。製造業では、終身雇用が色濃く残ります。
長期的視点で人材育成をしており、福利厚生も手厚いため、離職率は低い傾向でした。反対に飲食業界などのサービス業は早期離職率が高く、どんどん採用しなければ間に合わなかったため、積極採用を続けたのです。
そして2000年代に入り、終身雇用や年功序列と呼ばれる日本の雇用制度が崩壊し始めます。このころから成果主義が注目されるようになったのです。
こうして、システマチックな人事制度に基づいて右肩上がりで昇給する将来は来なくなりました。この現実を目の当たりにし、「こんな会社、辞めてやる!」と若者の早期退職に拍車がかかります。