発展しない経済――需要と供給が一致している経済

それでは、まず、「静態的」な経済とは、どのようなものか、シュンペーターの議論をたどってみましょう。

「静態的」な経済とは、生産されるすべての商品に、そのはけ口としての消費者が常にいて、消費と生産設備がずっと同じ状態で維持されるような経済です。

言い換えれば、「静態的」な経済は、消費と生産、需要と供給が一致し、均衡・安定しているのです。

バランスよく積まれた石
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「静態的」な経済は、停止状態にあるわけではなく、動いてはいますが、その動きが自ら変化するとか、新しい動きが生まれるといったことはありません。同じ動きが繰り返されているだけです。

また、シュンペーターは、「生産」という活動は、何かを「創造」しているわけではなく、既存の物と力を「結合」しているのだと強調しています。(*2)

例えば、工業品の生産は、原材料という「物」と、電力や労働力といった「力」を「結合」させることです。自然に存在していた「物」や「力」を引き抜いてきて、それを別の組み合わせにすることで、生産が行なわれるのです。

「静態的」な経済では純利潤がゼロになる

さて、「静態的」な経済とは、需要と供給が一致している状態にある経済です。

生産者の間で完全な自由競争が行なわれる場合、商品の需要と供給は均衡します。その時、企業の「純利潤」はゼロになっているとシュンペーターは述べています。

ここで言う「純利潤」というのは、「与えられた条件のもとで最善の用途と、それを選択することで断念しなければならない次善の用途との違いからくる差額」(*3)のことと定義されています。

この需要と供給が均衡して純利潤がゼロになるという状態については、後で詳しく説明します。

さて、この「静態的」な経済に、「貨幣」を持ち込んでみましょう。

「静態的」な経済では商品の取引が行なわれるので、支払手段や価値の尺度としての「貨幣」が必要になります。

貨幣は支払いのための手段ですから、商品の流れを反映するものになります。ただし、貨幣の流れは、当然のことながら、商品の流れとは逆方向になります。