親孝行は後になったらやりたくてもできない

いつも前向きで、思ったことは即実行に移すのが、まさるさんのモットーだ。

「やりたいと思ったら行動しないと、いつまでも夢で終わっちゃう」

70歳でアシスタントを始める前、時間に余裕がある時は、興味のあった彫刻や水墨画に挑戦した。プロ並みの腕前だ。

家事は妻や嫁の仕事と言われた時代に、料理も掃除も子育ても進んでやった。

「“男子厨房に入らず”なんて、誰が言ったんだろうね。料理は頭の体操になるし、買い物は健康にもいいのに」

幼少期を過ごした樺太時代の厳しい生活があったから、心も体も強く生きられるのだろう。やり残したことはないが、心残りはあると、ポツリと言った。

「親孝行。ようやく同じ立場になった時にはもういない。旅行にも連れて行きたかったし、親父に好きなマグロをもっと食べさせてあげたかったな」

まさる式お金のかからない健康法

91歳のまさるさんは、よく健康法について尋ねられるそうだが、決まって、頭と体を意識して動かし、やりたい事をやると伝えている。

「俺だって目は悪いし、耳は遠いし、高血圧で禁酒したこともあるよ」

91歳という年齢なりの病気と向き合いつつ、健康のために小さな努力を積み重ねている。例えば、風呂の中で肩を回したり、腕を上げたり、簡単な体操を35歳のころから毎日(!)続けている。体に痛いところがあれば入浴中にもんで、その日のうちに整える。

ほかにも、散歩中には頭の体操の時間。車が通れば、ナンバープレートの数字を足し算や引き算などで10をつくる遊びや、表札の名字を見て同じ名前の知人を思い出したりして脳を使う。日々の小さな習慣が、健康に繋がっているのだ。

「健康は他人からもらえない。自分で考えて、自分でつくるしかないんだ」

年寄りの大病は“歳のせいにして何もやらないこと”と続ける。恥ずかしがらずになんでも挑戦することが、最大の長生きの秘訣のようである。

今後の夢を訪ねると、「夢? まだまだあるよ。YouTubeも料理教室ももっとやりたいし。年寄りに時間はないから、迷っている場合じゃないんだよ」。

まさるさんの輝いている瞳を見ていると、私たちの気分も上がって元気になる。きっと100歳の料理研究家も夢じゃないだろう。これからも多くの人を驚かせ、飛躍すると、心から思った。

91歳、元気いっぱいで働き続ける秘訣を教えてくれた小林まさるさん。
写真=長野陽一
91歳、料理研究家、経歴21年の料理アシスタントとして、元気いっぱいで働き続ける秘訣を教えてくれた小林まさるさん。
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