“情報源”としての信頼が失墜
しかし、この決定は、ツイッターのもっとも価値あるユースケースをむしばんでいった。それは、速報性の高いニュースのための、おおむね信頼できる情報源としての役割である。
ブルーチェックはもはや本人であることを証明するものではなく、誰がどのアカウントからツイートしているのか、なりすましでないのかを知ることは事実上不可能となった。プロのジャーナリストや報道機関のアカウントが一般アカウントと区別されなくなり、信頼性の高い情報を素早く見つけることが難しくなった。
ニューヨーク・タイムズ、ポリティコ、ワシントン・ポストなどの大手メディアは、会社のアカウントはもとより、認証を希望する所属ジャーナリストに対してもチェックマークのためのコストの負担を拒否した。「認証済みのチェックマークが、もはや権威や専門性を表すものでないことは明白です」とワシントン・ポスト紙は声明で述べている。
世界で何が起きているかをいち早く知るための場としてのツイッターの評判は、ほぼ露と消えてしまった。数カ月後、イスラエルがテロリスト集団ハマスとの戦闘を開始すると、Xは虚偽や誤解を招くような投稿で溢れかえった。マスク自身が、虚偽の情報を流すことで知られるアカウントのフォローを推奨している(このツイートは後に削除された)。
ツイッターの惨劇の中「スレッズ」が生まれた
マスクは他の角度からも、ツイッターに対する信頼を損ねていった。2023年2月、フェニックスで開催されたスーパーボウルを観戦したマスクは、自分が投稿したフィラデルフィア・イーグルスに関するツイートが、ジョー・バイデン大統領のイーグルスに触れたツイートよりも閲覧数が少なかったことに腹を立てながらカリフォルニアに戻った。
その後に何が起こったか。ツイッター従業員による、アルゴリズムの微調整である。マスクのツイートに有利に働くように従業員が奮闘したのである。微調整のはずが、担当グループが張り切りすぎたのか、あらゆるツイッターユーザーのフィードが、マスクの投稿で埋め尽くされる始末となった。
マスクはそれを笑い飛ばし、問題をソフトウェアのバグのせいにしたが、マスクはいつでも自分の都合のいいようにサービスを調整することができるし、そうするつもりなのだと、皆が知るところになる出来事だった。
このようなツイッターの惨状に、水中で血の匂いを嗅ぎつけるサメのように、好機を見出す会社が現れる。2023年前半、いくつかの企業がツイッターの「クローン」プロダクトの構築に取り組み始めた。ツイッターの凋落により生じた空白を埋め、不満を抱いてツイッターから離脱するユーザーを拾いあげようとしたのだ。
新たな対抗サービスの一つが、マーク・ザッカーバーグとインスタグラムによる、ツイッターにうりふたつの「スレッズ(Threads)」だ。スレッズのローンチに際してザッカーバーグは「10億人を超える人々が利用する、おおやけの場での会話のためのアプリがあるべきだと考えている」と書いている。「ツイッターにはそれを実現する機会があった。だが成功していない」