社員は辞職、25万人の読者を失うことに
11月5日のアメリカ大統領の選投票日が目前に迫っている。各地では期日前投票が佳境を迎えているが、世論調査は全米でも、勝敗を決めるとされる激戦州でも依然拮抗していて、どちらが勝つかまったくわからない。
しかしここへきて、勝敗を示唆するかのような現象が起き始めた。
10月25日、アメリカの政治報道で最も権威あるワシントン・ポスト紙の社説が衝撃を与えた。同紙は1976年以降の大統領選で毎回、支持する候補者を発表していた。ところが、今回はハリス氏、トランプ氏のどちらも支持しないと発表したのである。
社説では「読者にバイアスを与えないため、かつての方針に戻った」などと説明しているが、読者の憤りは収まらない。なぜならワシントン・ポストはこれまでトランプ氏を強く批判し、彼の再選に伴うアメリカ民主主義の危機を叫び続けてきたからだ。この方針に対し数人の編集者や記者が辞職を表明、サブスクを解約した読者は25万人に昇った。
オーナーのベゾス氏が「確トラ」を警戒?
内部関係者は「ポスト紙はすでにハリス支持の社説記事を準備していた。差し止めたのは、オーナーのジェフ・ベゾス氏の意向による」としている。アマゾン創業者のビリオネア、ベゾス氏は2013年にワシントン・ポストを買収。しかしアマゾンや宇宙開発のブルーオリジンなどに比べて事業規模が格段に小さいこともあり、これまで編集方針に口を出すことはほとんどなかったという。
ではなぜ、今になってハリス支持をやめさせたのか?ベゾス氏はかねてから、ワシントン・ポストのトランプ氏批判のために、トランプ政権時代から攻撃の的になっていた。一説には個人的にトランプ氏が好きではないとの憶測もある。しかし、ハリス氏の失速が伝わるや、ハリス支持のままトランプ氏が当選した場合、アマゾンやブルーオリジンのビジネスにも影響が及びかねないと判断したのだろう、報道を自粛したとみられている。
また宇宙開発では、最大のライバルであるスペースXのイーロン・マスク氏がトランプ氏とべったりであり、政権入りも確実視されている。その意味でも、少なくとも中立の立場でいたいと考えたのではないだろうか。
ワシントン・ポストとほぼ同時に、候補者の支持を取り下げたのはロサンゼルス・タイムスだ。東のニューヨーク・タイムスと並ぶリベラルの高級紙で、社長はやはりビリオネアの起業家、パトリック・スーン・シオン氏。こちらもトランプ氏への忖度が噂されている。