若い男性支持者が「アイラブユー!イーロン!」
さらにラストスパートの今、集会にもメインゲストとして登場するようになり、セレブパワーを余すところなく発揮している。そこには、マスク氏に強い憧れを抱く若い男性有権者を取り込みたいという思惑がある。
というのも、女性有権者のマジョリティは全年齢でハリス支持、男性はトランプ氏寄りという男女の大きな分断があるからだ。女性はハリス氏が打ち出す、人工妊娠中絶禁止の撤廃をはじめとした人権擁護を強く支持している。片や男性は、経済に強いとされるトランプ支持に傾いている。それが若者、特にZ世代(18~27歳)になると、男女のギャップがさらに開いてくる。
これ以上女性を取り込むのはおそらく無理だが、世界一の大富豪イーロン・マスク氏が加われば、若い男性を説得する強力な材料になるという計算だ。
これは筆者が先日取材した、ニューヨーク・マディソンスクエアガーデンでの支持者集会でもはっきり見てとれた。真っ赤なMAGA帽子を被った2万人の支持者の中に、若い男性の姿も目立っていた。トリのトランプ氏のすぐ前にイーロン・マスク氏が登場すると、他のどの出演者とも比較にならないほどの拍手喝采が起き、「アイラブユー!イーロン!」という野太い男性の声が飛びかった。まさにマッチョな男と男の愛、ブロマンスの世界が繰り広げられていた。
はしゃぎすぎたトランプ集会の「大炎上事件」
ちなみにマディソンスクエアガーデンといえば、NBA(バスケ)、NHL(アイスホッケー)の試合や、テイラー・スイフト、ビリー・ジョエルといったスーパースターのコンサートも行われる、世界で最も有名なアリーナだ。しかも民主党支持者が多く住むマンハッタンのど真ん中にあり、トランプ氏にとっては超アウェーな地といってもいい。
ここをあえて投票日直前の集会所に選んだのは、ニューヨーク出身の“トランプ氏の凱旋”という意味があったからだ。つまり勝利を目前にして、アウェーの地でさえこれだけの支持者を集められるという勢いを、世界のメディアを通じて知らしめ、最後のダメ押しを図ったのだ。勝者になびく人の心を掌握したいという意図もあったに違いない。
実際、アリーナを埋めた支持者はもうトランプ氏が勝ったかのように、お祭りムードで浮き足立っていた。しかし後に、この集会で起きたとある一幕が大炎上することになる。
集会の全体のトーンは、9月に取材したニューヨーク郊外での集会とそれほど変わっていなかった。どの登壇者も「不法移民のせいで、アメリカの経済や治安は地に落ちている。このままではアメリカは破壊されてしまう」という非常に短絡的なメッセージを発信し、それらを盛り上げるために不法移民が犬や猫を盗んで食べているといった虚偽の情報をまくし立てた。特にマイノリティを差別し悪魔化、非人間化する中傷のレトリックが、9割以上を占める白人の支持者には大ウケなのだ。