「政治のチェック機能」が大きく揺らいでいる
トップメディアが次々に中立を表明する背景には、トランプ氏とニュースメディアの長年の確執がある。ほぼすべての大手新聞やテレビを「フェイクニュースメディア」と攻撃してきただけでなく、大統領在任中はCNNの記者を、ホワイトハウスを出入り禁止にしたり、3大ネットワークのCBSテレビに対しては、今回当選したら放送免許を取り上げるなどと警告しているほどだ。
また、第2次トランプ政権の青写真とされている「プロジェクト2025」では、公共放送への予算カットや法的地位の剥奪などが明記されている。メディアの批判を受けずに好きなように事を運びたいという意図が見え見えだ。
これまで主流派ニュースメディアは、トランプ氏の出現で始まったPost-Truth(※)の社会ではトランプ支持者からボイコットされても、中道やリベラルからの信頼は保っていた。しかし今回の措置で、トップ報道機関としての存在が大きく揺らごうとしている。
※Post-Truth…客観的な事実や根拠よりも先に、主観的な意見や感情的な訴えが政治に強く反映される状況を指す=編集部註
もし他メディアが追随するようなことになれば、言論や報道の自由さえも自粛によって失われてしまう。そして、権力に影響されない独立した政治のチェック機能として「アメリカ民主主義の4つ目の柱」とまで言われたニュースメディアが崩れ去り、民主主義そのものが大きく弱体化することになりかねない。トランプ氏が当選すればその危機は現実になるだろう。
“お金配りおじさん”と化したイーロン・マスク氏
このような驚くべきメディアの忖度を見ていると、もうトランプ氏の当選が決まったかのように見えるかもしれない。しかし、それに待ったをかけたのが米大統領選恒例の「オクトーバーサプライズ」だ。
オクトーバーサプライズは、投票まで1カ月を切った10月に、これまでの流れを大きく変える出来事を意味する。記憶に新しいところでは、2016年大統領選でヒラリー・クリントン氏の敗北を決定づけた「国務長官時代の私的メール問題」がある。
今回のオクトーバーサプライズはトランプ氏にとって大きな追い風に見えた。ビリオネア、イーロン・マスク氏の全面参戦である。暗殺未遂の直後にトランプ支持を明言して以降、スーパーパック(政治活動委員会)を通じて巨額の資金提供をしてきたが、ここへきて、トランプ氏への投票を約束し投票者登録をした市民に対し、毎日1人ずつ、100万ドル(約1億5000万円)をプレゼントするコンテストまでぶち上げた(本件は違法の疑いで訴えられている)。