リスクがない手術は存在しない

手術には必ずリスクが伴います。そしてそれは、手術そのものによって生じる問題とは限りません。その時点ではわかっていないけれども、将来的にわかってくる問題というのもあります。

Aさんのケースも、以前はあまり重視されていませんでしたが、レーシックが普及して時間がたつにつれて顕在化してきた問題です。

手術に伴うこうしたリスクは、屈折矯正手術に限らず、白内障手術やあらゆる手術に言えることです。ところが、こと屈折矯正手術になると、そのメリットやデメリットが極端に強調される傾向があります。いったいなぜなのか。

日々患者さんと接していて感じるのは、「術後リスクの受け入れやすさ」という心理的な問題です。

もちろん、避けられるなら誰だってリスクは背負いたくありません。ただ、網膜剝離や緑内障など、眼病を治療するための手術であれば「やらなければ失明する」という状況ですから、術後のリスクは、多少心理的に受け入れやすいかもしれません。しかし、近視矯正手術は、多くの人にとって、「見えにくい」という不便な状態を解消するための手術であり、言ってしまえば、やらなくたって困らないものです。だからこそ、何か起きた時に心理的になかなか受け入れにくいということがあります。

なぜ私はレーシックもICLも受けないのか

筆者も近視で、普段はメガネをかけて生活していますが、近視矯正手術は受けていませんし、受ける予定もありません。

なぜかといえば、まず1つには「困っていない」からです。繰り返しになりますが、視力矯正手術というのは、メガネやコンタクトで生活することに不便さを強く感じる場合に、メリットがでてくるものです。しかし私自身あまり不自由を感じていない。むしろ、眼科医という特性上、細かく見る作業が多く、メガネで細かく見られるほうがかえって便利、という事があります。

2つ目は、老眼問題です。40代半ばともなってくると徐々に老眼になります。せっかく近視の矯正手術を受けてメガネが外せても、今度は手元を見るためにメガネが必要になる。そんな事態がすぐに来ることがわかっているのに、わざわざリスクを背負って、治療をするメリットを感じないからです。

3つ目は、やはり、リスクの問題です。非常に危険というわけではないですし、実際に不具合が出る人はほんのごく一部ですから、手術を積極的に行う医師からすれば「安全で安心」と思うでしょう。「99%大丈夫」と言われると、まさか自分が1%に入るとは想像しませんが、その1%は確実に存在します。そして筆者は、緑内障の治療を専門とする関係でその1%側にいる人たちをたくさん見てきました。

こうした患者さんの多くは、矯正手術を担当した医者の元ではなく、当院のようなところにいらっしゃるので、結果として多くの不幸な症例を目の当たりにすることになります。Aさんに限らず、さまざまな症状を抱え、目の前で苦しんでいる患者さんを見ていると、自分がやりたいという気持ちにはなれないというのが正直な気持ちです。

筆者が受けないからといって、矯正手術を受けることが悪いというわけではないですし、むしろ受けることで「この人は幸せになれるだろうな」という患者さんもいます。ただ、気軽に受けることができる手術だからこそ、こうしたリスクをきちんと考えた上で、納得した選択をしてほしいと思っています。

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