同じ失敗を繰り返さないために

実際、民間企業の経営者に合計1兆円を超す投資を水泡に帰す判断はなかなかできるものではない。だからこそ、本来であればいち早く政府、東電、保安院で協同対策本部をつくり即座に海水を注入し、廃炉になった損失は国が補償するよう決断しなければならなかった。

(AP/AFLO=写真)

しかし国が沈没するかもしれないという危機時に、政府は東電と一体になるどころか責任を押しつけるような真似ばかりして、国益を大きく損ねていた。

人間は大きく5つの場面でコミュニケーション能力を試される。それは「説得する」「断る」「謝る」「叱る」「共有する」の5つで、なかでも非常時に必要になるのが「共有する」である。東日本大震災で言えば政府と東電、あるいは政府と国民が考え方を共有するというコミュニケーションが必要になってくる。

そのときに大事なことが3つある。1つめは錦の御旗、目標、成果という「錦目成(キンモクセイ)」。すなわち大義名分と、どこまでやって、どんなメリットがもたらされるのかを示すことである。

2つめは相手の頭の整理を手伝うことである。たとえば、先に相手の頭のなかに箱をつくってから話をする。具体的に言うと、最初に「危機管理のステージは4つある」と枠組みを提示したうえで、「それは感知、解析、解毒、再生である」と説明すれば、相手は頭のなかに箱を4つ用意してから話を聞くので、より理解しやすくなる。「錦目成」のような語呂合わせも記憶を助ける効果がある。

最後は比喩やたとえ話を使うこと。放射線量の観測値は50マイクロシーベルトと数字だけを出されても一般の人には何のことかわからないが、「胸部レントゲン検査1回分」と言われればそれほど危険はないと理解できる。これら3つの「共有する」コミュニケーション技術は、普段の上司への報告や部下への指示でも同様に有効なものだ。

本稿で私はかなり政府を批判した。それは確実に発生する次の震災で同じ失敗を繰り返さないためである。いつ、どこで次の震災が起きるのかはわからないが、適切な危機対応さえ行えば恐れるような状態には陥らずに済むのである。

※すべて雑誌掲載当時

(構成=宮内 健 写真=AP/AFLO、PANA)
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