クライシス・コミュニケーションの基本的な手順は、以上のような内容である。政府がどこまでやっていたのか私は知りうる立場にはないが、統合連絡本部を設置したのは震災発生から5日目であり、官房長官からポリシーや戦略に関する情報は出てこない。この2点だけを見ても、手順を踏んでいないのは明らかである。

菅直人元首相や東電の清水正孝元社長の振る舞いも問題だらけであった。危機的状況の際、トップこそが前面に出て大所高所からポリシーと戦略を語らなければならないが、現実には官房長官や副社長に情報開示を任せっぱなしであった。総理大臣も代表取締役社長も、この危機時にリーダーとしてまったく機能していない。

11年3月12日、菅元首相が福島原発を視察した後に爆発が起きる事態があったが、トップはこのようなパフォーマンスをするべきではない。万が一の事態があれば最高意思決定者が不在となってしまうからである。それよりも対策本部の一部を東北地方に置くことのほうが大切である。現地の情報が生の声で伝わらずに、施策がプロダクトアウト的にならないために、現地にも本部が必要なのである。

民主党政府が東電との統合連絡本部を設置するまでに5日も要したのも、危機管理の何たるかを理解していないため東電と一体になって事態へ取り組む発想がないか、後の責任問題を恐れ東電と一蓮托生になるのを避けたからであろう。

原子炉を冷却するために海水を注入するという判断を東電が初動時にためらったため、現在の事態を招いたという指摘がある。海水を注入すると1基数千億円かけた設備を廃棄しなければならないから、東電の清水元社長はその経営判断を即座に下せなかったというわけだ。