「老いも、認知症も、ありのままでいい」。そう語りながら、生まれ育った地域で介護施設を運営するのは、83歳の現役訪問看護師・江森けさ子さんだ。同年齢の入所者も多い「介護」の現場で、いまなお挑戦し続けている。そのバイタリティの源は、「高齢者に寄り添い、幸せな人生で幕を下ろさせてあげたい」という強い信念だった――(前編)。
高齢者の手を握っている看護師の手元
写真=iStock.com/miniseries
※写真はイメージです

山深い過疎の集落で地域に根ざした介護を

長野県松本駅から車でカーブの多い道を30分ほど走らせると、山深い緑に囲まれた、のどかな田園風景が広がる。以前は四賀村(現・松本市)だったこの集落に入ると、見えてくるのが「峠茶屋」の看板だ。

「こんな田舎までわざわざ来てくれて」。そう笑顔で出迎えてくれたのは、私財を投じて地域の介護施設を立ち上げてきた江森けさ子さん(83歳)だ。

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NPO法人 峠茶屋では、松本市四賀地区で地域密着型通所介護(デイサービス)、定員9名の認知症型グループホーム、訪問看護ステーション、居宅介護支援事業所、定員7名の住宅型有料老人ホーム、訪問介護事業所、福祉有償運送事業などを運営。「地域で暮らし 共に生き 地域で老いて 地域で看取る」がモットーだ。

60歳の時に、終の住処すみかのつもりで家どころか墓まで用意していた静岡を離れ、故郷の四賀にUターン。2年後には通所介護施設「峠茶屋」を開所し、地域の高齢者のケアに取り組むようになる。施設運営の傍ら、介護支援専門士、認知症ケア指導管理士の資格も取得。もともと持っていた看護師の資格を生かした訪問看護師として、現場で高齢者に寄り添ってきた。