※本稿は、加藤俊徳『老害脳』(ディスカヴァー携書)の一部を再編集したものです。
「見て見ぬふり」と「押しつけ」
最初に、「老害」は社会の中でいかにして生み出されるのか、右脳と左脳の視点を通じて、そのメカニズムについて考えていきましょう。
まず、脳は一般に、環境脳と言える、環境からの情報処理を得意とする右脳と、自分脳と言える、自分自身の状況を言語で認識する左脳に分けられます。
従って「老害脳」も大きく2種類に分けることができます。社会や環境から影響を受ける「右脳老害」と、自分自身の状況認識が発端になる「左脳老害」です。
「右脳老害」は、環境や社会からの影響を受けやすく、周囲に同調することで生じる行動を指します。たとえば、組織内での悪しき慣習を無批判に受け入れる行為がこれに当たります。
一方、「左脳老害」は、自己中心的な視点から生じる行動で、自分の価値観や意見を他者に押しつける傾向があります。たとえば、過去の成功体験に固執し、新しいアイデアを拒絶したり、一方的に怒鳴りつけたりする姿勢がこれに該当します。
要するに、「右脳老害」の特徴は「見て見ぬふり」、「左脳老害」の特徴は「頑固・押しつけ」です。
「老害」がまん延した組織の末路
組織内で「老害」がまん延すると、その文化に同調する人々は、まず、知らず知らずのうちに「右脳老害」化してしまいます。そしてそのまま組織に居続け、地位が上がり権限が大きくなるにつれて、やがて自分自身への認識も固定化していき「左脳老害」にもなってしまいます。
そんな組織に、まさか「それは『老害』ですよ」とか、「最近脳が衰えてきているのでは?」などと指摘してくれる人がいるはずもありません。もしそんな人がいたとしても、すでにその組織に見切りをつけているでしょう。
そうなると、その組織にはもう、波風を立てずに「老害」をうまくかわして生き延びようとする人しか残っていません。そんな人がまさか「老害」に片足を突っ込んでいる人を救い出してくれるはずもありません。そうすると、もはや健全なコミュニケーションは成立しにくくなります。
このような「老害」がまん延する環境に身を置いていると、自己を客観的に見つめる機会が得られず、思考の柔軟性が失われていきます。最終的には、脳の活動が全体的にマンネリ化していき、完全に衰えてしまうのです。