人生の後半に大切なことは何か。お笑いコンビ「浅草キッド」の玉袋筋太郎さんは「あえて新しいことを始めないことも大事だ。急に山奥でそば打ちや陶芸を始める必要はない」という。ノンフィクションライターの長谷川晶一さんが聞いた――。

※本稿は、マイナビ健康経営のYouTubeチャンネル「Bring.」の動画「40歳から養う「仕事観」。あえて、「新しいことをはじめない」という選択肢を持つ」の内容を抜粋し、再編集したものです。

玉袋筋太郎さん
写真=石塚雅人
玉袋筋太郎さん

「ズルをしない、近道を歩かない」

【長谷川晶一】ビートたけしさんに弟子入り後、芸能界で約40年のキャリアを持つ玉袋さんですが、仕事観に関してこだわっている部分はありますか?

【玉袋筋太郎】たいした考えは持っていないけれど、唯一、大事にしているのは「ズルをしない、近道を歩かない」ってことかな。このことについては、仕事から離れたところから話したほうがわかりやすいかもしれない。例えば、美味いラーメン屋や焼肉屋に行きたいというときも、いまはスマホで検索するじゃない?

もちろん、知らない店に飛び込んでまずいものを食べるリスクを考えたら、ぱっと調べて美味いものを確実に食べられる店を選んだほうがいいよな。だけど、俺の考えでいくと、「ハズレもあたり」なんだよね。ハズレを引く経験をするから、「こういう店はパスしたほうがいい」という嗅覚が磨かれるわけだからさ。ハズレを引いても、「うん、これは授業料だ。安いもんじゃねえか」と思えれば、あたりになるというわけ。

【長谷川晶一】「ハズレもあたり」と思えるようになったのは、どのような経験からだったのですか?

【玉袋筋太郎】やっぱり、俺の場合はスナックの会話で活きたことかな(苦笑)。まずい店に入ってしまったら、それを初っ端に失敗談として話すんだよね。

自慢話や成功譚から入るとどうしても煙たがられがちだけど、「ママ聞いてよ。あの駅前の店に入ったら、冷めたものが出てきてさ。参っちゃったよな」だったら、もう最初から犬が腹を見せているような状態じゃない。「この人は攻撃をしてこない」ってみんなから受け入れてもらえるよ。ハズレだって、それを笑い話に転換してしまえば、価値が出てくる。

「無駄」にこそ意外なお宝が埋まっている

だから、スマホに頼ってズルをするんじゃなく、さっきいった嗅覚――これを俺は、鼻のナビゲーション、「ハーナビ」って呼んでいるんだけどさ、それを信じたほうがいい。ハーナビは使えば使うほど精度も上がってハズレを引かなくなるし、最初は遠回りになるかもしれないけれど、そうして掴んだ自分だけの嗅覚は大きな武器になるよ。

もちろん、ハーナビは仕事にも有効なものだよね。飲食店のチョイスだけじゃなく、人を見る目にも影響を与えるものだから。誰かがいっている評判じゃなくて、実際に相手に会って得た感覚で判断していけば、信頼できる人なのかそうでないのかといったこともわかるようになってくると思う。

【長谷川晶一】いわゆる「タイパ」などという考えとは真逆の思考ですね。

【玉袋筋太郎】うん。いまの時代、それこそビジネスパーソンには効率が求められがちだけど、無駄に見えるようなことにも意外なお宝が埋まっていることはよくあるし、たとえそれがいまいちだったとしても、そこから引き出しが増えていくものだよね。