アニメ作品は戦争をどう描いているのか。防衛研究所防衛政策研究室長の高橋杉雄氏は「現実の国際政治学では人種差別と戦争の関係はほとんど研究されてこなかった。このテーマに正面から取り組んだ『ガンダムSEED』シリーズの先見の明は注目に値する」という――。
※本稿は、高橋杉雄『SFアニメと戦争』(辰巳出版)の一部を再編集したものです。
宇宙世紀シリーズとは異なる「ガンダムSEED」の戦争の構図
戦争の原因を描き出す上で、『機動戦士ガンダムSEED』に始まるガンダムSEEDシリーズは興味深い問題提起をしている。ガンダムSEEDシリーズでは、宇宙に移住した人々が住むスペース・コロニー国家のプラントと、地球上の国家群が形成した地球連合との戦争が描かれている。
ただし、宇宙世紀シリーズとは対立の構図が異なる。宇宙世紀シリーズでは、宇宙移民者と地球に残った人々の対立・抗争が描かれているのに対し、ガンダムSEEDシリーズの対立・抗争の原因は単に住む場所が違うからだけではないからである。プラントの人々の多くは、遺伝子を調整して身体的にも知能的にも高い能力を持つ人間となったコーディネーターと呼ばれる人々である。
一方、地球連合の人々の多くは遺伝子を調整していないナチュラルと呼ばれる人々である。ガンダムSEEDシリーズでは、遺伝子調整を行って生まれたかどうかを巡って人種差別的な偏見が生まれ、戦争に至る。