瞬発力が求められることに苦手意識を感じている

似たような事例を挙げましょう。

就活の相談を受けていると、「学生時代に友達が一人もできませんでした」と言う人がいるのです。一見、辛い話なのかと勘違いする方もいるかと思いますが、彼らは「なので、自分のペースを乱されることなく、穏やかな毎日が送れました」と言います。相手の反応を知る由もなく、かかわることを拒否した最たる例かと思います。

若い世代のコミュニケーションの取り方は、想像以上に変化しています。Z世代のあとにつづくα世代(2010年以降生まれ)を含め、生まれたときからデジタル技術があるデジタルネイティブの人たちです。彼らが社会人になる2030年ごろは、さらにコミュニケーションの形が劇的に変化しているかもしれません。

電話に瞬発力が必要なことも、電話に苦手意識を持たせてしまうひとつの要因です。情報が少ないにもかかわらず、相手の言葉に即座に反応して返さなければいけない電話というツールは、テキストベースのコミュニケーションが主体の人にはかなりの負担です。

文字テキストであれば、言葉を推敲すいこうして返すことができますし、相手から予想外の反応が返ってきても、時間をかけて考えることもできます。しかし電話ではそれが許されません。少し時間をかけて考えたい、失敗してはならないといった気持ちがあってすぐ決められない人にとっては、瞬間的に返答しなければならない電話は相当なプレッシャーになります。

在宅ワークがコミュニケーション不足を深刻にしている

飲食店でオーダーと違う飲み物を持ってこられても、「違っています。取り替えてください」と言えない世代にとっては、ひと呼吸おいて意見を発信できる文字ツールのほうが安心できるのでしょう。

また相手にどう思われるか気にする人も電話に苦手意識を持つはずです。「こんなことを言ったら、相手はどう思うか」とか「こんなことを言ったら失礼に感じるだろうか」など、いちいち考えながら言葉をつむぐのは、膨大ぼうだいなエネルギーを要します。

しかも相手から瞬時に返ってくる反応に、ミスなく対応できる自信もありません。日頃から失言で大炎上するニュースなどを見ているので、よけいに恐怖がつのります。電話が苦手な人は、おそらく瞬時に反応するコミュニケーションに自信がないのではないでしょうか。

コロナの影響で、人と直接会わなくなり、在宅ワークが増えたことも背景にあります。私が受ける相談でも「誰とも話さずに家にずっといて、いざ話をしようとする際に言葉が出てこない」というものが目立つようになりました。話そうと思っても、言葉が出てこない。もっと深刻になると、声が出ないというのです。

コンピュータを操作する日本人男性
写真=iStock.com/mapo
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