「レッドカード基準」の実効性はいまだに乏しい

私は継続的に各自治体の状況をウォッチする必要があると考え、23年12月にも同様の調査を行った(129自治体、回収率100%、繁殖業者やペットショップに対する監視・指導を担う自治体はそのうち107)。

立ち入り検査終了のめどがたたない自治体は引き続き27あったが、この調査時点までに、口頭や文書による「指導」の対象になった事業所は全国で計4997まで増えていた(一部自治体は延べ数で回答、9自治体は未集計)。やはり「事業者と行政が同じものを見て確認できるため説明しやすい」(福島市)、「指導の根拠が具体化され、(監視・指導の)一助になっていると感じる」(埼玉県越谷市)との声があがった。

ただ、飼育環境を改善するよう「命令」する行政処分が下されたのはいまだ4事業所にとどまり、一方で一つの事業所に対して「指導」だけを3回以上繰り返す、行政処分を躊躇するような事例がみられた自治体は51にのぼった。「レッドカードを出しやすい明確な基準」(小泉氏)として制定された飼養管理基準省令だが、その意味での実効性はいまだ乏しいままのようだった。

もっとも、

「安易な動物取扱業の登録申請が減り、相談段階における抑制になっていると感じる」(徳島県)
「基準に対応できないことが理由と推察される業者の自主廃業が現に確認されている。悪質な事業者の排除という目的の達成には有用であると考える」(沖縄県)

などの指摘もあった。飼養管理基準省令の施行を理由に廃業した業者があったとする自治体は31にのぼった。

「命」を物扱いすること自体に無理がある

一方でこの時の調査では、繁殖を引退した犬猫の取り扱いにつて、複数の自治体から問題点が指摘された。

「繁殖引退犬・猫を複数頭飼養している事業者があり、事業所で飼養される犬猫すべてが適切に飼養されるためのルールが必要」(北海道)
「従業員1人当たりの飼養保管頭数が制限されることになったが、引退動物が飼養管理等数に入らないことが抜け道となり、指導が難しくなっている」(福井市)

さらに高松市は「ケージ等の基準や従業員数の基準を満たせば、いくらでも規模を拡大することが可能であり、さらに繁殖引退後に販売に供される犬猫は規制から外れることから、善悪にかかわらず、経済的状況によって起こる飼育崩壊の危険性は残ったままです」としつつ、こう指摘した。「『命』の消費・流通の仕組みがほかの『物』と同じ状態にあることに、無理があるように思います」

汚れたケージに入った4匹の子犬
写真=iStock.com/Wirestock
※写真はイメージです

飼養管理基準省令で規制する内容は、およそ3年という時間をかけて議論され、犬猫の健康や安全を守るために定められたものだ。施行前からいくつか問題が残されていたことに加え、自治体の現場で運用が始まって見えてきた課題がいくつもある。業者のもとにいる犬猫の飼育環境を確実に向上させ、かつ法令順守を徹底させるために、環境省と各自治体はより一層の努力を払い、知恵を絞る必要があるのは明らかな状況だった。