狙い通り、いい女性たちが集まった。多くは、昼間に何かやりたいことがある人たちで、学生たちは学校へ、歌手になる勉強をしていた女性は先生のところへと通い、料理教室へいく人もいた。ピーク時には60人になり、「M型勤務」が都合のいい人も少なくない、と知る。朝早くに配達体制を整えるため、荷物の仕分けや積み下ろしを手伝う「作業アシスト」という仕組みも整えた。

問屋や商店の旦那たちは、始めのうち「何だ、若い女に大事な荷物を運ばせるのか」と顔をしかめた。だが、すぐに、爽やかな対応ぶりが気に入られる。おかみさんたちも、商品が早い時間帯に届くから、お店に早く並べることができて、喜んだ。船場地区などでは、ライバル企業に取扱量で9対1近い大差をつけられていたが、ぐんぐん伸びて、約4年で逆転する。競争相手も女性パートを採用したが、全く別の視点だったようで、脅威にはならない。

荷主と届け先の「2つのお客」に

ヤマト運輸では、何十年も前から社員たちに「2つのお客」の発想を説いている。普通に思えば、お金を払って荷物を出す荷主が「お客」だが、それを受け取る人も「お客」と考えて、むしろ受け取り手の便利さを追求した。そこから、斬新なサービスを生み続けている。南港での成功も船場地区での逆転劇も、その企業文化が咲かせた花だろう。

「善戦者致人而不致於人」(善く戦う者は人を致して、人に致されず)――戦上手な司令官は、常に主導権をとり、相手に主導権を渡さないとの意味で、中国の古典『孫子』にある言葉だ。常に先んじて動き、主導権を握れば、ゆとりをもって戦えるし、思い切った策も打てる。市場の変化にただ追従するのではなく、先んじて市場を切り拓く瀬戸流は、この教えに通じる。

2008年2月、社長のときに、東京・羽田に広い土地を買う。羽田は沖合の埋め立てが進み、空港がどんどん広がって、成田以上の国際空港にもなりそうだ。その近くに、国内のお客が海外へ送る荷物や日本に送られてきた品々を取り扱う施設をつくる予定だ。