母親を反面教師に、娘たちの話を聞き、抱きしめる子育て

どうやらその理由は、両親が育った家庭にあった。

月野さんによると、父親の母親はネグレクト気味。母親の父親は過干渉で、家族を執拗にコントロールしようとする人だったらしい。だから母親の姉も母親も鬱になり、母親の姉は自死している。母親が自分の母親の介護をしていたのも、幼い頃から自分をコントロールし続けてきた父親が命じたからだった。

「母はよく『私は何も考えずに生きてきた』と言っていましたが、想像するに母は、祖父からコントロールされる人生を歩んできたせいで、深く考えると死にたくなってしまうから、自分を守るために、考えずにやり過ごそうとする病気みたいなものにかかっていたのかもしれません……」

月野さんの、兄に対する思いや言葉は、幼い頃に苦しんでいた自分への思いや言葉のように感じる。

願わくばその言葉を飲み込まず、少しでもいいので、生きているうちに母親や父親に伝えてほしい。

なぜなら、月野さんはアダルトチャイルドに他ならないからだ。

幼い頃から今までの苦しみを直接吐き出すことは、自分自身の心の傷と向き合い、心の痛みを取り除き、自分自身を受け入れる絶好のプロセスであるだけでなく、自分自身が人間として成長し、健全な人間関係を作っていく一歩となる。

それが月野さん自身のためであることはもちろん、両親のためでもあり、兄のためでもあり、月野さん自身が築いた新しい家族のためでもあるのだ。

「40年前と比べ、現在は知的障害や発達障害などの情報はかなり増えました。それと同時に、そのそばにいるきょうだい児についての情報も、もっと増えればいいなと思っています」

月野さんは現在、自分の母親を反面教師に、娘たちの話を聞き、抱きしめる子育てを実践している。

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