交感神経と副交感神経のバランスを整えよう
魚類や爬虫類の子どもは、生まれた瞬間から自分の力で生きていけるようになっているが、わたしたち哺乳類のほとんどは、かなり長期間にわたって養育してもらわなければならない。哺乳類の子どもには、自分を守り、食べものを与え、安全な環境を整えてくれる存在が必要だ。そのため哺乳類は、人に近づき、人とつながることが可能になる生理学的な特徴を備えるように進化してきた(※2)。
とくに大きな進化の1つは、背側迷走神経の発達だ。背側迷走神経は有髄副交感神経系のなかにあり、臓器と中枢神経系をつないでいる。この進化が重要なのは、親子の結びつきや養育本能の基盤になるからだ。それがひいては、他者への思いやりを感じる神経の通り道が開かれることにつながっている。
有髄副交感神経系のこの部分は、いわゆる「グリーンゾーン(交感神経と副交感神経のバランスが最適な状態)」の基盤になる。わたしたちはこのグリーンゾーンに入ると、心を落ち着かせ、集中し、フローの状態を経験し、さらに他者に寄り添ってケアすることができる。
グリーンゾーンはまた、顕在意識を活用して目標を視覚化し、目標の達成を目指すのにもっとも適した状態でもある。
副交感神経系のスイッチが入り、迷走神経が活性化すると、グリーンゾーンに入ることができる。これは以前にも出てきた「休息と消化」の反応と同じだ。このようなウェルビーイングの状態になると、全般的な健康状態が向上し、オキシトシンのような有益なホルモン(身体の免疫力を高める働きがあるホルモン)が分泌され、フローの状態になることによって学習効果、批判的思考(クリティカルシンキング)、創造性が向上する。つまり、全般的に人生が最適化されるということだ。さらにこの状態になると、脳の高次機能を司る皮質がハンドルをにぎるので、マニフェステーションも可能になる。
副交感神経系によってもたらされるのは、自分の感情、記憶、計画を処理する能力だ。
その結果、わたしたちはより思慮深くなり、自分が経験していることに対してより適切に反応できるようになる。こうやって物事を広い視野から眺める能力は、自分が世界をどのように見るかということを自分の意思でコントロールするうえで欠かせないカギになる。
自分の反応を自分で選ぶことができれば、その選択がわたしたちの肉体に影響を与え、それがさらに周囲の環境に影響を与える。それによって、まわりの環境がわたしたちにどう反応するかということが、決まるのだ。
※2 James N. Kirby, James R. Doty, Nicola Petrocchi, & Paul Gilbert (February 2017). “The Current and Future Role of Heart Rate Variability for Assessing and Training Compassion.” Frontiers in Public Health 5(3).