危険な「内なる批判者」の存在
DMNに関する初期の研究でわかったのは、何か目標があるタスクを行っているときは活動しないということだ。そこでDMNは、「タスクネガティブ・ネットワーク」というあだ名で呼ばれることになる。
しかし現在、そのあだ名は誤解を招くということで使われなくなった(vi)。実際はDMNの状態にある脳も、内向きの目標があるタスクだけでなく、概念にかかわる認知タスクにも従事しているからだ。そして外向きのタスクに従事するときになると、DMNはコメンテーターのような役割を果たし、自分のパフォーマンスについて何を思ったかということを詳細に伝えていく。
人間にとってもっとも危ない精神の状態の1つは、自分に向かって習慣的にネガティブな言葉を投げかけることだ。これは「内なる批判者」とも呼ばれている。神経科学の観点から説明すると、この内なる批判者は、DMNと交感神経系の不幸なコラボレーションということになる。
DMNが交感神経系のストレス反応と結びつくと、自己意識が機能不全のような状態になってしまう。ここでとくに重要なのは、DMNと脳内の注意ネットワークが負の相関関係にあるということだ。つまり、DMNが活発になるほど、注意力は低下する。この本で紹介しているプラクティスには、DMNの活動によって自己意識が高まりすぎるのを防ぐという目的もある。
DMNの働きが「自己」の基盤
DMNは、マニフェステーション(願望実現)において2つの力強い教えをわたしたちに与えてくれる。
1つは、とりとめもなく考えごとをするという状態があることからもわかるように、脳の認知は「いま、ここ」で起こっている出来事だけにつなぎ止められているわけではないということ。この本でも、五感で知覚していることから意識を意図的に切り離し、想像のなかの未来で経験することと意識を結びつけるというプラクティスを紹介している。
もう1つは、ぼんやりと考えごとをしているときの脳は、想像をより具体化しているということだ。そしてこれが、自分の内部で感じる「自己」の基盤になっている。自己意識はたしかに日々の社会生活で欠かせないものだが、いわゆるフローの状態を大きく阻害するという問題もある。ビジョンがまるで現実であるかのように体験するには、フローの状態になることが不可欠だ。そのため、自己意識のボリュームを下げる方法を学ばなければならない。