自分に価値あるものを識別するシステム
顕著性ネットワーク(SN)とは、脳が「何が大切か」ということを決めるために使う認知システムだ。
あとでさらに詳しく見ていくが、脳はつねに膨大な量の情報を受けとっている。具体的には、1秒間に600万ビットから1000万ビットだ。そのうち意識的に処理できるのは、1秒間にわずか50ビットにすぎない。これはつまり、脳が受けた刺激の99.9995パーセントは、無意識のうちに処理されるということだ(※1)。
脳は内部からも外部からも刺激の集中砲火を浴びている。そんな状況で、いまの自分にとってもっとも大切な情報を見分け、それに沿った行動を選ぶのが顕著性ネットワークの仕事だ。
顕著性ネットワークは、脳に入ってくるすべての情報をフィルターにかけ、重要度に沿って優先順位を決めている。また、情報の矛盾や食い違いに気づくのも顕著性ネットワークの役割だ。
わたしたちの潜在意識には、自分にとって価値のあるもの、自分が注意を向けるものを識別するシステムが備わっている。このシステムが、顕著性ネットワークによる情報の選別にも影響を与えているのだ。
いくつかのエビデンスによると、不安、抑うつ、痛み、アルコールや薬物の濫用などが、顕著性ネットワークに不具合が起こる大きな要因になっていると考えられている。衝動的な思考によって、注意が自分で意識した方向からむりやり別の方向に引っぱられるからだ。
※1 Bob Nease, The Power of Fifty Bits: The New Science of Turning Good Intentions Into Positive Results. (New York: Harper Business, 2016).
どのように重要度を判断しているのか
顕著性ネットワークは、脳に入力されるすべての情報のなかから顕著な情報を抽出する。何が顕著であるかはたいてい文脈で決まり、目新しさや意外性がカギになるのだが、自分が意識して「これが重要だ」と判断したものに注意を向けることもある。
顕著な情報とは、ぼんやりした背景のなかでパッと目立つ特徴をもつ情報のことだ。人間が情報を処理する能力は限られている。ある状況で入力されるすべての情報に注意を向けることは不可能だ。
あとでまた詳しく見ていくが、どの思考やアイデア、意図が顕著な存在になっているかということが、どの情報がもっとも意識されやすいかということを決め、ひいてはそれがその人の世界観にもっとも大きな影響を与えていくのだ。