「氷河期は大手企業に入れなかった」への反論

ただ、「人数的に大差なくとも、中身が異なるだろう。バブル期は大手企業に入れたのが、氷河期は名も知れぬ中小ばかりだったのではないか」という声が聞こえてきそうなので、次のデータを出しておく。

【図表】大手(従業員1000人以上)への大学新卒入社数(単位,1000人)
※図表=筆者作成

こちらは、雇用動向調査を基に、大卒で従業員1000人以上の大手企業に、新規入職した人の数を示している。この数値には、正社員のほかに、フルタイムの契約社員も含まれる。ただ、20代前半のフルタイム契約社員実数は労働力調査などから「少数」であることがわかるため、その多くを正社員と考えて相違ないだろう。

図表3からわかる通り、大手への大卒新規入職数はバブル期にピークとなり、14万5600人にも上っている。バブル崩壊後その数は急減し、2000年に8万7100人でボトムとなる。以後、10万人前後で超氷河期は底這いを続けている。

確かに、超氷河期は、大手企業への採用が減ったが、その減少幅は特異的に採用が多かったバブル期の3~4割減にとどまる。超氷河期とは、やはりその程度のものなのだったのだ。あの就職売り手市場と言われたバブル期ピークと比べても、総就職人数で15%弱の差、大手への就職数でも3~4割の違いに留まる。平年と比べれば、就職人数で2~3万人、大手就職数では1~2万人の差に留まるだろう。世に言われる「名も知れぬ企業に就職するか、はたまた無業かといった絶望的」なものでは、全くない。

この時期は、eビジネスの黎明期にもあたる。今を時めく、ヤフーや楽天、DeNa、サイバーエージェントなど、21世紀の勝ち組企業が大口の採用をしていて、現在そこで重席に座る氷河期世代は多い。好況期であれば、海のものとも山のものともわからないこうした新進中堅企業は、えてして見向きもされなかっただろうから、万事塞翁が馬と言える部分もあるだろう。

景気が悪いと「就職先が1ランク下がる」程度の違い

当時私は、人材ビジネスの企画職と編集職を行ったり来たりしていたので、氷河期世代の就職の実相を、取材や企業ヒアリングを通してよくわかっている。

まず、今も昔も、就職は各大学のレベルに合わせて、相応な入社先が決まっている。その大学の過去の採用実績を見れば容易にそれは察しがつく。

平時ならそうした「身の丈」レベルの企業に就職するところが、景気が良くて売り手市場だと、1ランク上の企業を選ぶことができる。逆に景気が悪いと、1ランク下がる。そうした「上下1ランク」程度の変動が景気により起きる。

たとえば、早慶旧帝大などのSランク校であれば、通常時ならエスタブリッシュな超大手企業に多数が就職できただろう。ところが、不況期になると、大手は大手でも、あまり名の知れない企業や、BtoBの地味な企業などが増える。そんな程度の変動なのだ。間違っても、Sランク大学出身者の大半が名も知れない中小企業に入ったなんてことはないし、逆に言えば、今でもSランク大学出身者が少数ながら名も知れない中小企業に入ってもいる。