「フランスの生ケーキ」の流行と定着

4つ目の要因は、洋菓子自体のトレンドが変化したことだ。1990年代後半から2000年代初め頃までパティシエブームになり、フランスの生ケーキが人気になった。

この頃、複雑な味の要素を組み合わせた、美しいフランスの生ケーキが流行し定着した。昭和時代のケーキは、シンプルなスポンジケーキが中心だった。しかし、フランスの生ケーキはムースやジャム、タルトなど味も食感も異なる多彩な要素を組み合わせる複雑なスイーツである。その味にハマった人たちは、以前ほどシンプルなスポンジケーキに惹かれないかもしれない。町の洋菓子店という同じ土俵で勝負するフランス菓子店が増えたのだ。

最後の要因は、ケーキの敷居の高さだ。ケーキは、テーブルと椅子がある空間で皿に盛り、お茶と共にいただくというシチュエーションも大事である。もちろん、片手で食べる、シチュエーションは気にしないという人もいるだろうが、きちんと場を整えてこそおいしいスイーツではないか。

一方、近年の専門店などで流行するスイーツには、手軽さが売りになるモノも多い。ドーナツしかり、ポップコーンしかり。スイーツブーム終了後に大ブームになったパンも、手軽さと価格の安さが魅力だった。流行を広げる若い世代はもちろん、中高年も経済的に余裕がない、と感じている人や、スイーツ以外にお金を使いたい人も多い。選ぶならより安いモノを、という人は多いだろう。

さまざまな種類のドーナツ
写真=iStock.com/viennetta
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もしかすると、外観が古びるに任せた老舗の洋菓子店に、入りづらさを感じている若者もいるかもしれない。コストを割けないなどの理由でリニューアルもできず、くすんだ印象を与えている店は多そうだ。

昭和レトロブームに乗るのも一つの手だ

このように、今は洋菓子店が生き残るうえで、障害が山ほどある時代だ。町の洋菓子店は、生き残るために、自らのスタイルをはっきりさせる必要があるのではないか。昭和スタイルで愛され続ける店は、固定客を満足させつつ、昭和らしさを追求してレトロで売る方法もある。商品の魅力を押し出すラインナップ、内装や外観などにして、若い世代の昭和レトロブームに乗れば、新しい顧客が開拓できるかもしれない。

また、思い切って新しいジャンルの商品を増やす、内装や外観を変えて、アップデートする方法もある。海外では、日本の美しい生ケーキの評判は高い。観光地に近ければ、インバウンド客目当てにアピールを変える手もあるのではないか。

いずれにせよ、自店の特徴をアピールし、良質な商品を作り続けている店でなければ、生き残りが難しい時代になっている。残念ながら、時代が変わればなくなってしまう商売、文化はある。洋菓子店はその意味で、生き残るか消えるかの転換点を迎えていると言えるだろう。

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