どうせ多数決で可決されるのに批判する意味は? という意見
ただ、田中氏は議会で批判ばかりしていると見る向きもある。二元代表制の下、地方議会は首長の出した議案を採決する役割があり、その前に議論するのが前提となっている。でも既に多数決で可決されることが見えていて、行政側の答弁の中身も事前に決まっていることが多い。そこで議案の内容を批判するのは、パフォーマンスだというのだ。
「議員が質問して、意思決定のプロセスを議事録に残さないといけない。将来検証する時、必ず必要になる」というのが田中氏の考えだ。末吉氏も「議案の課題や論点を、市民にわかりやすく説明する責任がある。行政側が気づいていない問題がある可能性がある」と指摘する。
末吉氏と一緒に抗議文の取りまとめをした埼玉県鳩山町議の野田小百合氏も、「確かに、一般質問で議案の内容がそんなに変わる訳ではないかもしれないけど、住民の意見を直接くみ取る現場を持っているのが地方議会。町の条例を作る際も、国から降りてきたからとか、法律ができたからといって、右から左に流すことはできない。国に意見書を出す必要がある時もある」と話す。
埼玉県鳩山町議会では発言を止められることがない
野田氏のいる鳩山町議会の場合は、会派がなく、ボスもいない。議会が止まることも、発言を削除するようなこともない。町の執行部も特定の議員を特別扱いするようなことはない。野田氏も、有権者の選択肢を増やそうと町長選に出たことがあるが、その後警戒されたことはないという。「議員数12人と所帯が小さいからではないか」と野田氏は言う。鳩山町では、古い住宅地を地盤としている議員も、新興住宅地の票が取れないと当選が難しい。そうした事情も背景にありそうだ。
そうした議会がある一方で、多数派に標的にされた議員が辞めていく議会もある。「田中さんのように戦う人は多くない。辛い思いをして壊されていく。色々言われるうち、もういいと思って次の選挙に出るのを止めてしまう」と野田氏は指摘する。田中氏に、これまでのことをどう思っているか聞いてみると、少し沈黙した後、「後悔はしていないけど、報われない仕事だなと思う。ただ私の場合『みんなの会in日高』という後ろ盾があり、本当に支えてもらっている」と答えた。