辞職勧告は「この人には議員の資格がない」というラベリング
そもそも辞職勧告決議とは何なのか。実は地方自治法の枠外にあり、強制力はない。元々、同法で懲罰として定められているのは、重い順に除名、出席停止、陳謝、戒告の四種類がある。除名はさすがに重く響くが、出席停止は、議員報酬の減額にもつながるわりには、辞職勧告決議ほど深刻に聞こえない。辞職勧告決議は、極めてアナウンス効果が大きいのだ。
「ポイントは、どういう時に辞職勧告決議をしてもいいか。元々、議員の資格がないとラベリングをする行為。国会はメディアや国民の目も行き届いているから、よほどの時でないとしない。ところが地方議会では、多数派が少数派をいじめる手段として濫用されている」と、田中氏の訴訟を担当する水野英樹弁護士。「SNSなど、議会外の政治活動について他の議員が口をはさむ余地を与えてしまった。表現の自由、政治活動の自由などを不当に制限する憲法違反に当たる」と主張したが、今月最高裁で上告が棄却され、敗訴が確定した。
なお、日高市議会の辞職勧告決議文には間違いがあるが、いまだに訂正されていない。「また次の台風で流され、また土木業者が儲かる」と田中氏が書き込んだように読めるが、実際は別の人の書き込みだ。一審、二審の判決でもこの点は確認されているが、放置されたままでの公開が継続。キーワードを入れて検索すると、今でも上位に出てくる状態だ。「これでは議員を陥れることだってできる。議会事務局が、間違いであることを議会に言わないのもおかしい」と、女性議員らによる抗議文の取りまとめをした一人、所沢市議の末吉美帆子氏は指摘する。
2012年に市長選に立候補したことでさらに警戒された
田中氏はなぜ、これほど標的にされているのか。元々は、2009年の初当選時から行ってきた議会報告の配布が始まりだった。議会が終わると毎回、議員報酬を使って、自分と同僚議員の議会報告、そして「みんなの会in日高」の会報を1万5千部、市内全域にボランティアの手でポスティングしてきた。年間計6万部もの規模になる。すると、自分の地盤に当たる地域に配るな、と他の議員から要求されたという。縄張り意識の強さを示す逸話だ。でも地区別に選挙区が区割りされているわけではないので、田中氏は止めなかった。
もう一つの理由は、田中氏が2012年に市長選に立候補したことだ。「そうした野望を持っていると見られたようだ」と田中氏は言う。立候補したのは有権者の選択肢を増やすためで、結果は落選だったが、以後警戒されるようになった。「トップ当選したり、首長選や県議選に出そうな人はつぶしておこう、と思う地方議員は多い。自分自身が狙っているから」と末吉氏は指摘する。