かつては「売られる資産」だった
【エミン】インフレの意味を理解して行動に出る日本人が、どんどん出てきているということですか……。
【大橋】これは過去50年のドル建てゴールド価格の推移です(図表2)。
1トロイオンスのゴールドが35ドルの米ドルと交換されていた金・ドル本位制は1971年のニクソンショックで突如終焉します。以降、市場で取引されゴールド価格が形成されるようになりました。
しかし、80年に875ドルという当時の史上最高値を付けた後は、低迷が続きました。
【エミン】かつてゴールドは「売られる資産」だと認識されていましたね。
【大橋】そうです。1990年代後半までの期間、それまで大量のゴールドを保有していたヨーロッパ各国の中央銀行はゴールドを売却し、上昇目覚ましい米国のドル資産を購入していました。
「ゴールド売却制限」で流れが変わった
【大橋】89年にベルリンの壁が崩壊、90年には東西ドイツが統一、米ソ冷戦終結が宣言され、米国が名実ともに世界の覇者となったためです。
98年には米国の財政収支も黒字に転換、米国債や基軸通貨ドルの信認が上昇、欧州の中央銀行によるゴールド売却によってゴールド価格の下落が続いたのです。金利の高いドル資産に比べ金利がつかないゴールドへの注目が薄れたということです。
ところが、99年9月、ECB(欧州中央銀行)とヨーロッパ各国の中央銀行は、ゴールドの売却を制限する協定を結びます。「ゴールド売却制限協定=ワシントン協定」です。