Z世代の6割が「死後世界」を信じる…調査結果の背景に“3.11”と“コロナ”

次に「死後世界」についての質問してみた。現代は科学万能主義の時代である。それでも、彼らは天国や極楽、地獄といった死後世界は、存在すると考えているのか。さらに、肉体が尽きた後も「無」にはならず、「魂」などの見えざる存在が残された者を見守り続ける、と信じているのか。あるいは、最近の若者は、無神論者の割合が多いのか。

結果は次のようになった。「死後世界を信じる割合」は62%、「霊魂の存在を信じる割合」は64%と同水準であった。

本調査に類似するものとして、先出のNHK放送文化研究所による調査がある。この調査では「祖先の霊的な力」「死後の世界」「輪廻転生(=生まれ変わり)」などについても、世代別に聞いている。

そのなかの「死後の世界」への肯定感についての設問での、肯定割合は37.4%(否定割合34.1%)だった。また、「祖先の霊的な力」への肯定割合は39.2%(否定割合32.1)であった。

本調査では「死後世界を信じる」「霊魂の存在を信じる」率がいずれも6割を超えており、霊的な存在への肯定感は、大学生>成人・社会人という結果になっていた。

若き世代はなぜ、見えざる世界を否定しないのか。それは、まだ彼らが祭祀継承者(墓や仏壇の継承者)になっておらず、死後世界にかかわる「煩わしさ」を知らないから、と言えなくもない。Z世代は、「ピュアに」死後世界と向き合っているのだろう。若き世代が死後世界に想像を巡らすことは、人としての情操を育くむ上でも、重要といえる。

最後に、精神世界を取り巻いてきた社会環境の変化の流れもおさえておきたい。

1970年代以降、日本では「死後の世界」や「霊魂」のブームは盛衰を繰り返してきた。日本における「死後の世界」のトレンドの嚆矢は1971(昭和46)年、ドイツの精神科医エリザベス・キューブラー・ロスの『死ぬ瞬間』の邦訳の発刊だと言われている。そして、1985(昭和60)年頃から1995(平成7)年にかけて、「オカルトバブル」と言っても過言ではない時代に入った。

俳優丹波哲郎の『大霊界』がシリーズ累計250万部の大ベストセラーになり(1987年)、霊能者・宜保愛子らがテレビに頻繁に出演し出した時代である。

新宗教(新新宗教)の設立が相次いだのもこの頃だ。1986(昭和61)年、大川隆法が「幸福の科学」を立ち上げ、「魂は永遠に命を持ち、輪廻を繰り返す」などの教えを広めた。また、1987(昭和62)年は、麻原彰晃が「オウム真理教」を設立。麻原は高学歴の若者を入信させ、神秘体験を体得させる手法によって、次第に求心力を強めていった。

2018年7月6日、オウム真理教の麻原彰晃の死刑執行に関するニュースを報じるスクリーンの前を通り過ぎる歩行者(東京)
写真=AFP/時事通信フォト
2018年7月6日、オウム真理教の麻原彰晃の死刑執行に関するニュースを報じるスクリーンの前を通り過ぎる歩行者(東京)

だが、1995(平成7)年のオウム事件発覚以降は、死後世界への関心が急激に収束していく。「死後世界」や「霊魂」などはタブーと化した。オウム真理教が実践したヨガなど、神秘体験に繋がるカルチャーも消えていった。

そのオウム事件の影響も2018(平成30)年には死刑執行が完了し、Z世代の中には事件そのものを知らない、あるいは関心を寄せなくなった者も少なくない。精神世界へのタブーはもはや今日では、かなり払拭され、「ヨガ(マインドフルネス)教室」などは、再び大盛況である。

『エース』編集室編集『「死」を考える』(集英社インターナショナル)
『エース』編集室編集『「死」を考える』(集英社インターナショナル)

さらに近年は、死後世界への関心を高める社会的エポックが2度、訪れた。2011(平成23)年の東日本大震災と、2020(令和2)年以降の新型コロナ感染症の大流行である。日本人一人ひとりが「リアルな死」を見つめ、考えるきっかけとなった。

イエール大学教授のシェリー・ケーガン氏が著した『「死」とは何か』が、2019(平成31)年に日本でベストセラーになり、今なお続々と精神世界に関する著作物が登場している。手前味噌になるが、今月末には筆者など28人が「死」について論じた『「死」を考える』(集英社インターナショナル)も発刊される。

「死」を考え、自己を見つめる、最適の場所が「墓」といえるのではないだろうか。

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