キャッシュレス化が進む中で、現金主義から脱却できないのが仏教界や神社界。お賽銭や拝観料のほか、檀家から徴収する墓地管理料や法事・葬儀の布施なども基本的に現金主義が貫かれており、今後も大きな変化はないと見られる。なぜなのか。ジャーナリストで僧侶の鵜飼秀徳さんが解説する――。

現金主義から脱却できない仏教界や神社界の秘密

日本銀行券の1万円、5000円、1000円の3種類が20年ぶりに刷新された。世界で初めて3Dホログラムを採用するなど、高度な印刷技術に注目が集まっている。一方で、キャッシュレス社会が広がる。「現物としての紙幣」は今回で最後になる可能性が指摘されている。キャッシュレス化が進む中で、現金主義から脱却できない業界が、伝統的な仏教界や神社界である。お寺から賽銭箱がなくなり、お布施がキャッシュレス決済の時代がやってくるのだろうか。

自販機や各地の小売店舗などでは、新紙幣対応機の導入が進んでいる。1台あたり数十万円以上の出費になるという。新紙幣発行を機に、完全にキャッシュレス決済に切り替える店舗も少なくない。

経済産業省によれば2023(令和5)年時点で、わが国のキャッシュレス決済比率は全体で39.3%(105兆7000億円)だ。キャッシュレス決済の内訳は、クレジットカード(83.5%)、デビットカード(2.9%)、電子マネー(5.1%)、コード決済(8.6%)である。

世界各国のキャッシュレス比率(2020年)を比較すると、韓国が93.6%、中国が83%と圧倒的に高い。続いて、オーストラリア67.7%、イギリス63.9%、アメリカ55.8%などとなっている。主要先進国で日本より低いのはドイツ21.3%くらいである。

政府は2025(令和7)年までにキャッシュレス決済を4割とする目標を立てているが、こちらは達成できそうな見通しだ。将来的には韓国・中国とも並ぶ8割を目指している。新紙幣発行が、キャッシュレス決済加速へのトリガーになれるだろうか。

コロナ禍が明け、観光地には大量のインバウンドが入ってきている。彼らの多くはキャッシュレス大国からの訪問者だ。したがって、キャッシュレスに対応しなければ、機会喪失になってしまう。

特に京都や奈良、鎌倉の有料拝観寺院への観光客の大半は外国人である。寺社におけるキャッシュレス決済システムは、すでに導入済みと思いきや、実はほとんどが未対応だ。特に筆者のいる京都では、寺院や神社への支払いは基本、現金のみと考えた方がよい。他方で欧米の教会などでは、入場料や寄付などのクレジットカード決済は当たり前である。

賽銭箱
賽銭箱(写真=Ocdp/CC-BY-SA-3.0/Wikimedia Commons

ここからは寺院(観光寺院)における収入の種類を挙げながら、キャッシュレス決済と現金決済のどちらが相応しいかを、論じていきたい。