遺体を堆肥にかえる……自然葬のひとつ「コンポスト葬(堆肥葬)」が、欧米を中心に広がりをみせている。3年前に本欄で「『カプセルの中で自分の体を30日かけて腐らせ堆肥に』究極の自然葬に3カ月で550人も予約が殺到した」(2021年7月21日配信)を執筆したが、その後、コンポスト葬に新たな動きが出てきた。本稿では「キノコ葬」「フリーズドライ葬」など一風変わった方式を紹介しよう。

動物の餌になる「獣葬」とは

死後、自分の体を地球の循環システムに組み込む――。そんな理想を持つ人は今も昔も一定数存在しており、独自の葬送文化として、今も各地で続けられている。

自然葬の最たるものは、動物の餌になることである。葬送の分類では「獣葬」というが、アフリカや東南アジアなどで今でも見られる葬送だ。仏教説話の中では、究極の獣葬が登場する。「捨身飼虎しゃしんしこ」という。これは古代インドで、ある王子が飢えたトラに自分の体を差し出し、最高の善行とした逸話である。

チベット仏教が広がる地域では、よく知られた「鳥葬」の風習がある。鳥葬とは、遺体を食べやすいよう切り刻んだ上で、ハゲワシに捧げる弔い。鳥葬は宗教上の儀式であり、先述の捨身飼虎同様、布施行の一種とされている。鳥葬の場合も、地球の循環システムの中に組み込まれる。

遺体を堆肥にかえる「コンポスト葬」は「風葬」のひとつ

本題に入ろう。自分の遺体を植物の肥料にする弔いは、「風葬」というジャンルに分類できそうだ。風葬は、遺体の野晒しのことである。日本では中世、権力者から庶民まで風葬が当たり前であった。当時の人々が、エコロジー思想を抱いて風葬を選んだとは考えにくいが、結果的には遺体が土壌に還るエコシステムである。

近年、わが国では樹木葬や散骨が空前のブームにある。実際には樹木葬の多くが納骨室を設けているので、土の肥やしになることは少ない。それでも、「土に還る」ことを希求する人は、一定の割合を占めている。特に関西地方では、遺骨(遺体)への執着は薄く、納骨時には火葬骨を骨壷から出して土に還すしきたりが色濃く残っている。

海外に目を転じれば近年、コンポスト葬を手がける事業者が増えている。その嚆矢は2001(平成13)年に設立された、スウェーデンのPROMESSA(プロメッサ)社であろう。創業者はスザンヌ・ウィグ・マサク氏という女性だ。生物学者でもあった彼女は、遺体の分解と生命の循環の知識を葬送に結びつけようとした。

その手法は、食品保存などで用いられている「フリーズドライ」である。遺体は死後、マイナス198度の液体窒素で凍結。振動を加えてバラバラに砕き、そして乾燥させる。すると体重の30%ほどに減った粉末となる。そこから、金属などを取り除いて、土と混ぜて微生物に分解させ、およそ1年をかけて腐葉土にするのだ。遺体は無菌状態になるので、土壌も汚染されることなく安全というわけだ。フリーズドライ葬の費用は日本円で数万円という。

液体窒素から来る蒸気
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マサク氏は2020(令和2)年に死去し、事業そのものは中断しているようだが、その理念は全世界に広がり、賛同者が数千人規模に拡大中だ。米国やドイツ、スペインなどで事業化に向けて準備が進められているという。法整備さえ整えば、このフリーズドライ葬も拡大の余地はありそうだ。