なぜ、日本ではお盆にお墓参りをするのか。全国で若い世代を中心に墓参り離れが加速しているが、ジャーナリストで僧侶の鵜飼秀徳さんは「お墓参りにこれだけ熱を入れる民族は日本以外にあまり存在しない。また、各種調査で、墓参り習慣が人の抑制的な行動や利他の心、心のデトックスにつながることがわかっている」という――。
お盆の飾り(精霊馬)
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お墓参り離れが加速しているものの、日本人の供養心が篤いワケ

お墓参りをする絶好のタイミングが夏のお盆だ。お盆の歴史は古く、『日本書紀』の606年(推古天皇14年)に「是年より初めて寺毎に、四月の八日・七月の十五日に設斎おがみす」との記述があることから、お盆の歴史はゆうに1400年以上もある。墓参り離れが指摘される中、改めて墓参りの効能を示したい。

お盆参りは中世、貴族や武士が戦死者の祟りを鎮める目的で広まり、江戸時代の檀家制度によって一般化する。お盆の時期は地域によってひと月のズレがある。関東のお盆は7月中旬だが、地方都市では8月中旬が多い。

これは明治になって太陽暦(新暦)が採用されたことによる。この時、新暦の7月15日にお盆が設定された。しかし、この時期は農作業の繁忙期。地方都市ではお盆の行事が入ってしまうと農作業に支障が出るのでひと月遅れの8月15日にお盆をずらしたのだ。

しかし、東京は大都市圏なので、農作業とはあまり関係がない。そのため7月15日を採用したというわけだ。

とくにお盆は、企業や学校の休みと重なる時期である。それはなぜかといえば、ご先祖さまとの再会を社会全体として大事にしてきたからに他ならない。8月10日を過ぎれば、故郷に戻る帰省客で高速道路は大渋滞し、新幹線の乗車率も軒並み100%を超える。これは、ある意味、「お墓参り渋滞」とも言える。

とはいえ、核家族化が進む中で若い世代のお墓参り傾向が薄れているのも事実だ。TimeTree未来総合研究所によれば、お盆とその前後の土日祝日に帰省を予定したり、お盆の期間にお墓参りを考えたりする割合は10代が突出して少ない(図表1)。この傾向を分析すれば、ひとつはコロナ禍と核家族化によって親族のつながりが薄れていることなどが要因と考えられる。特に10代に関してはコロナ禍によって、祖父母の葬儀に出席できないケースが多数出現し、その後も供養に関わらない傾向が続いているとみられる。

【図表1】お盆期間に「帰省」の予定を登録している人数は実家暮らしの多い10代を除き若い世代ほど多くなった
TimeTree 未来総研「未来データレポート 2024年8月版」より

一方で、お墓参りを重要視する傾向は依然として根強い。日本人は信仰心が薄いとも言われるが、お墓参りにこれだけ熱を入れる民族は日本以外にあまり存在しないといえるだろう。

お盆には、精霊を迎えるにあたって盆棚を飾る(盆入りの13日頃)。キュウリとナスで作った馬と牛を飾るのは、「馬(キュウリ)に乗って早くこの世に戻ってきて欲しいが、あの世に戻る際には名残惜しいので牛(ナス)に乗ってゆっくりと戻っていって」という俗説があるからだ。

そして、13日の夕方には迎え火を焚く。迎え火は農村では田んぼの畦や、お墓などで焚くが、漁村では海岸で焚くこともある。しかし、迎え火の風習はだんだんと少なくなってきた。

迎え火でご先祖さまをお迎えした後は、菩提寺の和尚さんを自宅に呼んで仏壇の前で棚経をしてもらう。また、同時にお墓まいりもする。