参拝客は「お賽銭を投げ入れる行為」に宗教性を見出す

まず、拝観料(入場料)。本山クラスの大寺院や、庭園などの見所がある名刹で、拝観料を設定しているところがある。拝観料は20年ほど前までは、せいぜい300円程度であった。だが、近年では500円なら安い部類である。

京都では「冥加料4000円以上」という、強気な料金を設定している寺もある。「冥加料」「〜円以上」などの抽象的な言い回しをしているのは、あくまでも寺への入場は、宗教的行為であり、布施扱い(非課税)であるということを強調したいためであろう。

仏前や神前では、賽銭を入れる参拝者が少なくない。賽銭はほぼ100%、現金だ。しかも賽銭箱に投じられるのは、少額の硬貨がほとんどである。

2018年9月19日、出雲大社の賽銭箱
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近年、ゆうちょ銀行や都市銀行などでは大量の硬貨を預け入れる際には、手数料が必要になってきた。仮にゆうちょ銀行で1円玉を1000枚預ける場合の手数料は1100円。収入を超える手数料がかかることになり、本末転倒だ。宗教施設では、相当な分量の小銭が貯まっていく。寺院側にとっては、賽銭こそキャッシュレスが最も合理的な決済方法と思える。

だが、本堂の柱や賽銭箱の横にQRコードが貼ってあると、興醒め感は否めない。また、初詣などで人出でごった返す場合にはQRコードでは対応しきれない。

参拝客は「お賽銭を投げ入れる行為」そのものに対して宗教性を見出しているともいえる。キャッシュレス時代においても、やはり賽銭は現金のほうがしっくりとくる。完全にキャッシュレス社会になった時には、わざわざ「参拝コイン」なるものを買って、賽銭箱に投じるということになるかもしれない。

ちなみに、京都の東本願寺(真宗大谷派)では2020(令和2)年より、J-Coin PayとUnionPayでのお賽銭の支払いを可能にした。また、そのほかの布施の一部もクレジットカード決済を導入している。クレジットカードはタッチ決済が増えているので、支払いのストレスはかなり軽減された。東本願寺の試みは全国の寺院に広がりつつある。なお、PayPayでは「寄付行為」は禁止されており、賽銭箱の横にQRコードを設置することができない。