賽銭・布施については現金払いの慣習がこの後も続く
また布施の金額は、出す側が決めるのが原則だ。カード決済やコード決済では、布施が「サービスの対価」であるニュアンスが強まる。布施に関しては日本のよき、現金文化を残しておくのがよいと考える。
最後に2022(令和4)年に、全日本仏教会と大和証券が共同で実施した「お寺のDX」に関する調査結果を紹介したい。そこでは利用者の、寺院でのキャッシュレス決済の利用意向を聞いている(有効回答数6192)。
お墓の管理料――56%
拝観料――47.7%
お札、お守り、御朱印――46.8%
葬儀の布施――46.8%
賽銭――39.7%
上記の結果を踏まえ、「違和感のあり・なし」の調査結果をみていく。特に布施のキャッシュレス決済に関しては「違和感あり」が58%、「違和感なし」が42%となった。さらに詳細な調査では「布施のキャッシュレスに強い違和感を感じる」比率が23.3%に対し、「特に違和感を感じない」は11.7%と2分の1に。布施のキャッシュレス化は時期尚早のようだ。
以上述べてきたように、寺院・神社ではキャッシュレス化を進めることが肝要ではあるものの、賽銭・布施については現金払いの慣習がこの後も続くと考えられる。
なお、仏教界は近年、若き僧侶を中心にして、寺院のDX化が広がりつつある。だが、多くは旧態依然として変革を好まない勢力のほうが強い。
京都仏教会に至っては「布施のキャッシュレス化により宗教信者の個人情報および宗教的活動が第三者に把握される危惧がある」「布施のキャッシュレス化により手数料が発生し、収益事業として宗教課税をまねく恐れがある」などとして反発を強め、各寺院にキャッシュレス化を受け入れないことを求めている。だが、時代の流れには抗えないし、信教の自由の侵害や宗教課税を恐れる理由にしては説得力に欠く。
次回の紙幣の改刷があるとすれば20年後の2045(令和27)年頃か。現金の流通が残るのは、寺社仏閣くらいになっているかもしれない。そういう意味では、次の1万円札の肖像画は、わが国に仏教を取り入れた「聖徳太子」に回帰してもよいかもしれない。