首相と距離があることを隠さない茂木氏が衆院3補選期間中、次のような意向を周辺に語っているとの情報が永田町を駆け巡った。

「島根1区を含めて衆院補選で3敗だったら、引責辞任し、9月の総裁選に出るつもりだ。幹事長を辞めれば、『令和の明智光秀』と言われなくなる。小渕優子(選対委員長)にも辞めるよう求めている」

首相は昨年9月、茂木幹事長の交代を企図したが、麻生太郎副総裁から「『令和の明智光秀』にさせないから」と留任を要請され、受け入れていた。2012年の総裁選で石原伸晃幹事長が出馬に手を挙げ、谷垣禎一総裁が続投を断念した際、麻生氏が石原氏を「平成の明智光秀」と非難して、その勢いを失速させた結果、安倍晋三元首相が選出されたという経緯があるためだ。

茂木氏が辞意を表明すれば、「岸田降ろし」の号砲となりかねないだけに、首相らはその動向に注意を払っていた。だが、茂木氏は4月28日夜の開票速報を受け、「党の信頼回復に努めていく」と記者団に述べただけで、進退に言及することはなかった。

首相側近の1人は、この茂木氏の心変わりについて、「幹事長を辞めれば、(茂木派の)仲間がさらに減ることも考えたと思う。加藤勝信元官房長官が脱会するとの情報もあった。幹事長でいても、既に9人も抜けているのだから」と冷ややかに分析している。

「総裁選前の衆院解散は難しくなった」

岸田首相は今後、衆院解散・総選挙、自民党総裁選について、どう戦略プランやシナリオを描き直していくのか。

首相は当初、今年9月の総裁選の前に衆院を解散し、民意を勝ち取って、ほぼ無風で総裁再選を目指す考え(プランA)だった。

経済政策では3月に物価上昇を超える賃上げによって消費を後押しし、新たな投資を呼び込む好循環を目指し、外交では4月の国賓待遇での訪米、政治とカネの問題については終盤国会で政治資金の透明化を図る政治資金規正法改正を果たすことなどで政権の体力が回復すれば、茂木幹事長を更迭してでも、6月の会期末に衆院解散に打って出るというシナリオを用意していた。

だが、4月の読売新聞世論調査(19~21日)で、岸田内閣の支持率は前回3月調査と同じ25%で、6カ月連続で2割台に低迷する。政治資金規正法違反事件を巡る自民党の処分について「納得できない」は69%に上った。首相が処分の対象外になったことを妥当だと「思う」が26%、「思わない」は64%で、首相は厳しい評価を突き付けられていた。

そこへ衆院3補選全敗という結果は、衆院を早期に解散すれば、自民、公明両党が大幅に議席を減らす恐れがあることを意味する。この先、政権浮揚策は期待できず、首相周辺も「6月衆院解散は難しくなった」との見解を明らかにしている。

国会議事堂と曇り空
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