岸田首相が1月に党の派閥を解散した影響も受けた。錦織氏は公募に応じ、無派閥で臨んだため、岸田派を除いてどの派も秘書軍団を送らず、党本部職員や中国ブロックの議員秘書らが実務を担わされた。自民党は、岸田首相、茂木敏充幹事長、小渕優子選挙対策委員長ら国会議員が80人前後も現地入りしたが、誰も錦織氏に責任を持たなかったのと同然だったのである。

小池都知事から投げられた「クセ球」

衆院東京15区補選は、公職選挙法違反で有罪となった柿沢未途前法務副大臣(自民党離党)の辞職に伴うもので、立憲民主党新人で前江東区議の酒井菜摘氏が9人の候補による混戦を断った。

自民、公明両党は、昨年12月の江東区長選、今年1月の八王子市長選などで連携してきた小池百合子東京都知事が担ぐ候補に相乗り推薦する方針だった。だが、3月29日に小池氏から投げられたのは「クセ球」だった。乙武洋匡氏(作家、ファースト副代表)である。

公明党、自民党江東総支部からは過去の女性問題を理由に推薦見送りを求める声が上がった。自民党本部は4月2日に予定通り乙武氏の推薦方針を決定したが、乙武氏に8日の出馬記者会見で、「逆風になる」から自民党に推薦を求めない、と袖にされてしまう。

小渕選対委員長は12日、党の推薦方針を撤回し、「推薦の要請がない、地元から推薦を出さないでほしいとの要望が上がっている」と苦しい説明を余儀なくされた。公明党は「未決定」という苦肉の態度決定となった。

乙武氏は、小池氏が選挙期間12日中9日も選挙区入りしたが、自公両党支持層が離れたこともあって、5位で落選した。これは小池氏にとっても「誤算」だった。3期目となる東京都知事選(6月20日告示―7月7日投票)を控え、自公両党との連携を固めたいところだが、それが叶わなかったからだ。

政府・自民党内には、小池氏の神通力に陰りが出たとの見方も出た。確かに、小池氏が全面支援しても、自公両党の協力がなければ、当選させることは難しい。だが、自身の選挙となれば、また異なる評価があるだろう。

4月28日の補選投票日の読売新聞出口調査で、小池知事を支持すると答えた人は52%に上った。文藝春秋(4月10日発売)報道で再燃したカイロ大卒の学歴詐称疑惑などマイナス材料も抱えるが、小池氏が都知事選に3選出馬すれば、大勝するに違いない。

「3敗なら引責辞任し、総裁選に出る」

岸田首相は4月30日、衆院3補選全敗について、首相官邸で記者団に「真摯に重く受け止めている」と語るにとどめ、解散・総選挙については「課題に取り組み、結果を出すことに専念しなければならない。全く考えていない」と改めて否定した。

自民党内には、岸田首相では国政選挙は戦えないことがはっきりした、との声が充満している。首相は事実上、解散権を封じられ、求心力の更なる低下は避けられないだろう。