「私たちは、目にしたものに驚いた」と、ノースカロライナ大学(UNC)チャペルヒル校のクマムシ研究者、ボブ・ゴールドスタインはこの論文の序論でこう述べている。「クマムシは予想もしなかったことをしている」

クマムシのDNA修復分子は体内にあふれ、強烈な放射線被曝による損傷を迅速に修復する。人間にもDNA修復遺伝子はあるが、クマムシに比べると発現のレベルは、はるかに低い。

「クマムシは放射線に対して驚くべき反応を示した。それが驚異的な生存能力の秘訣のようだ」と、UNCアッシュビル校の生物学助教授で、ゴールドスタインの研究室の博士研究員だったコートニー・クラーク=ハッテルは、論文の序論で指摘した。「クマムシが放射線ストレスを克服する方法について私たちが学んでいることは、他の動物や微生物を有害な放射線から守る方法に関する新しいアイデアにつながる可能性がある」

また、クマムシのDNA修復遺伝子は常時大量に発現しているわけではなく、放射線を検出したときに反応して発現量が上昇していることもわかった。

「クマムシは電離放射線を感知し、特定のDNA修復経路遺伝子を大量に亢進させている。この能力は、DNAの完全性を維持する解決策の進化形を表しているかもしれないという仮説を立てている」と、論文は述べる。

科学雑誌イーライフに掲載された査読前論文によれば、フランスの研究者たちも、まったく独立した実験で同様の結果を得ており、その結果、放射線損傷からDNAを保護する可能性のある新しいクマムシタンパク質も発見したという。

「各研究所の結果が独立した形で、互いの研究結果を裏付けていることに、感動している」とゴールドスタインは語った。

当記事は「ニューズウィーク日本版」(CCCメディアハウス)からの転載記事です。元記事はこちら
【関連記事】
最悪の場合、死に至る…「ジャンボタニシ」を水田に放つ除草農法に絶対手を出してはいけない根本理由
「働きすぎると長生きしない」はヒトもアリも同じ…働きアリが「寿命3カ月」でも24時間必死で働く理由
ハブの毒は、人間の口で吸い出せ…奄美でハブを40年研究した男が解説「医者も知らない本当に有効な応急処置」
なぜ1950年代以前は花粉症患者がほぼゼロだったのか…花粉症が国民病となった「本当の原因」とは
「お母さん、ヒグマが私を食べている!」と電話で実況…人を襲わない熊が19歳女性をむさぼり食った恐ろしい理由