※本稿は、村上貴弘『働かないアリ 過労死するアリ ヒト社会が幸せになるヒント』(扶桑社新書)の一部を再編集したものです。
アリも活動を止めて「睡眠」をとっている
昆虫ももちろん眠る。昆虫の場合、ある一定程度、活動を止めている時間を「睡眠」と定義するため、人間の睡眠とは若干違うかもしれないが、確かに寝てはいる。それをコントロールしているのは哺乳類とほぼ共通したメカニズムだ。その主役はメラトニンというホルモンであり、それが作り出す「概日リズム」だ。
概日リズムはいわゆる体内時計のことで、多くの生物が共通で持っている。脳を持たないヒドラでもメラトニンが調整する概日リズム、体内時計が存在しているのだから驚く。
人間の場合、太陽の光が刺激となりメラトニンの機能が低下すると目が覚め、日が落ちて暗くなるとメラトニンが働き出し、眠くなる。本書の第1章で紹介したアカツキアリが未明から日の出までの時間帯にだけ活動するのも、この概日リズムによる。
アリは寝ている時、フェロモンの探知など情報の識別に使われる触角がたたまれ、後ろ脚を縮めて、小さく丸まって寝る。その姿は、とてもかわいらしい。
24時間働き続けるアリ、ほぼ動かないアリ
睡眠をとる時刻やリズムはというと、種によって大きく異なる。
日本でもっともよく見られるアリの一つ、クロヤマアリは日中働き、夜6~7時間ほど眠る。ハキリアリは基本的に24時間働いていて15分おきに2~3分ほど寝るだけだ。ただし、地域によっては夜の活性が落ちるという報告もある。
超ハードワーカーのハキリアリと対照的なのがカドフシアリだ。カドフシアリは珍しい種ではないけれど、基本、森の中に生息するため、一般に目にする機会は少ない。黒くつややかで丸っとしていて、とてもキュートだ。このカドフシアリ、なんと1日のうちほとんどの時間は動かない。
社会の複雑さも睡眠時間(労働時間)と関係していて、ハキリアリはアリ全体の中でもっとも大きく複雑な社会を作る。葉っぱをちぎって巣に運び、そこからさらに小さくちぎって発酵させ、キノコを育てる。収穫したキノコを女王アリや幼虫に給餌。キノコを育てる農作業だけでなく、コロニーの維持のための労働すべてが分業されている。徹底した役割分担によりコロニーは大きなもので数百万個体となる。
一方、カドフシアリはというとそのコロニーは小さく、50個体程度だ。